雑誌「婦女界」が主宰する「婦女界花壇」は砧村に園芸場を持って読者に通信販売を行っていた 主任は石山顕作氏
心得おくべき花環・花束・花籠の常識
婦女界花壇主任 石山顕作
◯ある失態
ある外国の有名な音楽家が来朝して、第一回の演奏会を華々しく開いた時、ステージに赤い花で作った大きな花環が飾られてあったのを見て、「私の芸術はまだ死んではおりません、また私自身も死んではをりません」と主催者に皮肉りました。併し主催者も、花環を贈る意味を知らなかったので、何の意味か分かりませんでした。
この音楽家は何に憤慨したのでしょうか。花環に対してです。花環は葬式又は追悼会以外には使用されないものなのです。ところが日本ではこのことが徹底していないため、未だに祝儀やステージに花環が送られるのを見受けますが、あれは全くの間違いです。しかも生花ならまだしも、造花の花環にいたっては誤りも甚だしいのです。ですからこの場合、ステージに飾られた花環は、追悼音楽会を意味したことになったのです。主催者の心はステージを美しく飾る好意に外ならなかったのですが、花の正しい使い方、贈り方を心得ていなかったために、とんだ大失態を招きました。
これはほんの一例にすぎませんが、今日の様に花という物が、生活の中に入りこんで、頻繁に使用される様になった現代では、花の使い方、贈り方位の事は、常識として是非心得ておく必要があります。
◎花環・花束・花籠の意味
花環は一たい不祝儀に使われるもので、葬式に用いて哀悼の意を表したり、追悼会とか追善の様な場合にそれぞれ使われます。
花環の外にも、十字架、ハート型、立琴型などの花でもって他の形を作った物は、すべて不祝儀に使用されます。ただ例外として月桂樹の葉で作られる花環と、馬蹄型の花環とは、優勝者に贈ります。
この外、花を贈る方法としては、花束と花籠とがあります。これは両者とも祝儀不祝儀すべての場合に使用していいのです。ただ不祝儀の場合には白い花を使い、祝儀の場合には赤い花を使う区別があります。
花環に使う花の色は、不祝儀の場合に使うのですから、原則としてもちろん白を使用するのですが、ときには色どりとして、ピンクや黄色も使います。それに花環、花束、花籠ともリボンを付けますが、このリボンの色も不祝儀には白と黒を用います。しかし花籠、花束で、ステージや送迎日常の贈物、クリスマスプレゼントなどには、白以外の色即ち紅やピンクが使われます。
お葬式の際に花環を贈るのに、日本の習慣に従ってお通夜に仏前に供えますと、葬式や告別式までもたないので、造花を贈る人がありますが、造花の花環は全く日本だけの習慣です。これは昔、仏前の蓮華が冬はないので造花を間に合はしたことに原因しているのですが、今日では温室というものがあって、花は年中絶えないのですから、当然生花を贈るべきだと思います。
告別式までに花が凋(しお)れる事を嫌うならば、お通夜には花瓶に挿した花なり、または花籠を贈って、告別式に花環を贈ればいいわけです。
お葬式にだけ使用するものに、スプレイとカスケットカバーとがあります。スプレイはお棺の上に帽子を被せた様な形に、花束の大きなものを置くのです。カスケットカバーというのは、棺に被せる布(きれ)に花を一面に縫いつけて、棺を花で飾るのですが、この場合に使用する花は、鈴蘭、スヰートピース、白ばら、白カーネーション、蘭など香りの高い花です。
花籠は全く自由に、どんな場合に使用してもよく、色彩でも花の種類でも、また大小様々の変化で美しい華々しいものや、寂しい物など、如何様にも出来ます。
◎花の選び方の注意
クリスマスには紅い花が沢山用いられます。紅いカーネーション、ポインセチア、ベゴーニア、赤ばら、その他、赤系統のものを主として、それに他のものを添えます。これにひきかえて、イースター(キリスト復活祭)には、白い花が使われます。たとえば鉄砲百合などです。
日常の贈答に使われる花籠や花束は、色彩からきめるよりも、花言葉の意味に重きをおいて、まづ花種を選んでから、色彩をきめるべきです。例えば賛色いばらは、お別れを意味するとか、赤いばらは熱情を意味するといったようなことです。駅頭の送迎に使用する花束や、ステージに贈る花は、いづれも華々しいものを使います。
また結婚式のブライヅ・プーケーは白に限られています。これはシャワー・ブーケーと言って細いリボンに花を結んで、花束の花の首に下げて滝の様な形を作るのです。ところが洋風結婚式がだんだん行われるようになった今日、シャワー・ブーケーでなく、普通の花束を持たしているのを見うけますが、これはどうかと思います。シャワー・ブーケーには白バラ、洋蘭、白カーネーション、白スヰートピース、鈴蘭、鉄砲百合などが、最も普通に用いられます。
なほ近頃の流行として、花束を贈る場合にある一種類の花で一つの色彩、例えば紅いカーネーション一ダースとか、白いバラ一ダースという様な単純な花束をつくります。これは花籠でも同様で、適宜に他の色彩を補色として用いてはいますが、なるべく単純に、而も力強い表現をするような傾向があります。
◎花を永くもたせる秘訣
花を扱う場合に気をつけなければならないことは、風に当てないということです。切花で根のないものに風をあてると、そのとき失う水分が多過ぎるために、早く凋んでしまいます。早く凋まさないためには、紙で包んで風をよけたり、また霧を吹いて葉裏の気孔を塞いで、水分の蒸発を制限する方法をとります。切花はまた風を嫌うと同時に、日光と温度の高いことも嫌うものです。日向に置いた花は日陰の涼しい所に置いた物の半分ももたないと言うことを注意しなければなりません。
花束の場合に花が凋んでも、根もとを持って水を掛けて、葉の裏にある気孔を塞いでやり、更に新聞紙に霧を吹いて濡れ紙を作ってから、全部を包んで水に挿して、暗い涼しい所においてやると、間もなく水を揚げます。
なお根もとを切り戻して、新しい切口として水に漬けることも必要なことです。水の汚れたのも水揚げを悪くして花を傷めますから、花を挿す水は清水でなければいけません。この意味で花瓶の水は、毎日かえるのがよいのです。
口 婦女界園芸部より
▼婦女界園芸部は、種苗球根の通信販売に、切花の頒布に、婦女界花壇に、それぞれ華々しい活動を開始して、好評を博しておりますが、今月から更に、ご注文に応じて花束、花篭.花環をお引受けすることにいたしました。
これはその性質上、東京市内及び近郊の方々に限られていますが、祝儀、不祝儀、送別、ステーヂなどに捧げる花を、最も礼式どおりに、而も最も迅速に市価最低のお値段でお引き受けいたしますから、左の規定に従って、婦女界社代理部内園芸部宛にご一報、ご利用下さい。
花束 三円以上
花籠 五円以上
花環 十円以上
同時に祝儀に使うのだからとか、船のお見送りに使うのだから・・・とかいう風にその使用の目的をお申し伝え下さい。必ず如何なる場合でも、手落ちなくご期待に添うようにいたします。
▼種苗球根をご希望の方は、二銭切手封入の上園芸部宛カタログをご請求下さい。
▼切花の頒布や、府下玉川の婦女界花壇をご使用ご希望の方は、ご遠慮なくお問い合わせください。
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