坂田商会のペチュニアがイギリスの展覧会で高い評価を得る   『実際園芸』昭和11年1月号

 【坂田商会のペチュニアがイギリスの展覧会で高い評価を得る】

『実際園芸』昭和11年1月号





編者のことば 

日本園芸への再認識 石井勇義

 今一度、改めて日本を見なおそうとする現今の思潮は、矢張り園芸界にも作用して、古くから培われて来た日本独特の花卉に、今一度眼をふり向けて見ようとする傾向が濃厚になって来た。そして明治末から、大正、昭和にかけて、殆んど一部の人々を除いては全く省られることなく忘れられていた古い日本花卉の品種が、もう一度新しい眼を以て捜し求められるようになった。併し、徳川時代の文献などに書き残されている品種のうち、「みやまうづら」の変種のように、既に日本花卉忘却時代に何時とはなしに跡を絶ってしまって、今はどこに捜し求めるよすがもなくなったものも多々ある。また、幸運にも特殊の愛好家に保護されて、僅かにその生命を保ちこたえて来たものもある。また、最近になって新しい品種も作出され、日本花卉に一層の活気を呈せしめているものもある。此の新品種作出の傾向は、今後益々盛になろうとしている。

これらの諸事情を通観して案ずるに、日本花卉復興の気運はまことに歓迎すべく、大いにその気息を促進助長せしむるの要がある、が、ここに注意すべきことは、日本花卉の復興とはいつでも、徳川時代の花卉のそのままの復興では意味をなさないことである。昭和時代の日本人には一度西洋花卉の洗礼を受けたものであるから、そこに自ら徳川時代の人達の眼とは異った眼を持っているに違いない。ひとり花卉に限らず明治以後に於いてその他の諸文化より受けた西洋的なるものは、打って一丸となって今日の日本人の趣味性の背景をなしているのであるから、如何に復古的な気運が生じたとて、直ちにそのまま徳川時代の人達と同じ趣味性には返れる筈はない。そこに園芸界の人達、殊に新品種の作出に携わる人達の一考すべき問題があると私は思う。即ち、日本花卉の美しさと、西洋花卉の美しさとが封蹠的に異質的なものであるという偏見を捨てて、現代人の趣味性に即する所の、西洋花卉美をも見た上の日本花卉美の方向に目標を定むべきであると私は思うのである。

次に、これは日本花卉に限らず、一般園芸界に就ての事であるが、日本園芸界の現状が世界的の水準から見て今何ういふ状態にあるかに就いて、一般の認識が足りないように思われる事である。それは、一般の人々には、西洋のものと比較すべき機会も少いし、比較されてもその結果の発表が行き亙らない等の為めに、何時迄も昔のままの西洋崇拝の念がとれず、殊に洋種花卉に於て、日本のものは悉く劣るものと思いこんでしまっている。折角、西洋のものより優れた種苗が出来ても、日本物蔑視の概念を以て一概にその優秀性を認めないのが普通である。そして、わざわざ高価を払って日本のものよりも時に劣った西洋物を仕入れるというような不合理を敢てしている場合も往々ある。先般坂田商会のペチュニアが園芸品の世界的試験台である英国ローヤル・ホーチカルチュラル・ソサイエチーの展覧会で、最高賞を三つも獲得した事は、こういう不合理を精算するための一契機として、甚だ意義あることである。今後もかかる日本の世界的位置を知らしめる機会のしばしばあることを仰望すると共に、一般の人達の認識の更改を希望する次第である。  昭和10年12月5日 石井勇義


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