「水切りにはたいして効果はみられない」「切ってすぐ水につける、も植物によっては絶対ではない」  昭和10(1935)年の切花の水揚げに関する研究




 『実際園芸』昭和12年5月号(「22-5」) 
記事は編集部・浅沼喜道(農学士)氏のレポート

ウルスラ・グルューニング女史の

切花の水揚げに関する研究

※水揚げに関して、「問いの立て方」がすごく実践的だと思う。いわゆる「学者」の研究とは一味違う論文ではないか。


 切花の耐久性すなわち花持ちを長くすること、換言すれば、水揚げをよくするにはいかなる方法を選ぶかということは消費者はもちろんのこと、生産者においても重要な問題である。今日のように切花が普及し、各家庭で日常品として使われるに従ってますます痛切に誰もが感ずる事柄である。そなわち消費者側としては一日でも長く花を長持ちさせたいし、生産者側としては「君のところの切花は花持ちがよい」といって褒められたいのが人情である。

 古来我が国には活花(いけばな)の水揚法として「真行草の水揚法」というのがある。これは陰暦によって1年を3ヶ月ずつに分け、その各々に適する水揚法を説いたもので、例えば真の水揚法とは6、7、8月の夏季に行う方法であり、行の水揚法は3、4、5月及び9、10、11月の春、秋2季に行う方法であり、草の水揚法は12、1、2月の冬季に行う方法である。このように古人は経験によって各時期にー番適した水揚法を案出しているのである。しかしながら、今日これが理論上正しいものでるか否かは決定できないが、とにかく我が国でも古来から相当水揚げということについて考慮が払われていたことを物語る一証になると思う。外国に於ては切花の利用が本邦よりも一層早くから大衆に普及していた関係からか切花の水揚げの問題を取扱った論文は極めて多く、彼等の結果は科学的な基礎の上に成り立っているので、我々も相当信用して実行に移す事ができる。

 最近(1935)、独逸・ハンブルグ大学の学位論文としてウルスラ・グリューニング女史によって提出された「切花の処理に関する研究」と題する一論文(61頁)が筆者の手に入ることができた。この論文を一読するに、なるほど学位論文として辱からぬ立派な内容であって、従来の切花に関する研究を一々討論し、切花の耐久性に関係する各種の要因について、調査したものであって切花処理の研究としては白眉のものと言ってよかろう。将来も恐らくこれ以上の立派な論文は出ないであろう。

 女史は単子葉、双子葉植物を通じ、31科57屬79種の多数の植物を以て試験したのであって、その規模の大なる点に於ても、実験の精密さに於ても、随一のものである。しかも女史は切花の耐久性を現わすに、数字を以てしたことであって、その一例を示すと各試験区は10本とし、今その中4本は1日間で、5本は3日間で1本は5日間で萎凋したと仮定すると、4×1=4、5×3=15、1×4=4、各々の和23を10で除した商2.3がこの花の平均耐久性となるわけである。すなわち、この切花の平均の花持日数は2.3日であるとするのである。こめ方法によって各種の要因と花持ちとの関係を一目瞭然たらしめたところにも、女史の頭のよさが分る。

前置きがたいへん長くなったが、次に本問題に入ることにしよう。

1.花を切る時間と花持との関係

 花を切る時間が花持ちにたいへん関係があることは、従来から色々言われ、すなわち日中切るのは有害で、朝か晩に切るように言われていた。では朝と晩といずれが有利であるかというに、或る学者は朝がよいと言い、また他の学者は晩がよいと言って議論が区々(まちまち)であった。一般にケシは朝がよく、菊は晩がよいと言われていた。特にリマン氏は晩に切った花は日中の同化作用によって淡水化物の含量が高いから、花持ちもー層良好であると述べている。

 女史は早朝未だ葉面に露のある時に切ったもの(第1区)、日中午後1時に切ったもの(第2区)、日没後切ったもの第3区に分け、数回日を変えて試験し比較したところ、或る植物では第2区が優り、或る植物では第1区、又他の植物では第3区が優るといった具合に、切花の時間と花持ちとの間に大して差異がないことが分った。女史は切花後直に水中に挿すならば、日中といえども害はないと結論している。

2.花を切る日の天候と花持ちとの関係

 従来の試験では高温乾燥した日に切ったものや、雨天の日に切ったものは花持ちが悪く、曇天で低温多湿の日に切るのが一番花持ちがよいとされていた。女史は雨天、晴天、高温の3区に分けて比較したところ、これも3者の間に明瞭な差異がなかったが、概して雨天の日に切ったものの方がやや花持ちがよかった傾向を示した。

3. 植物の発育状態と花持ちとの関係

 蕾の時に切るのが花持ちがよいとか、或は完全に開いた時に切るのが却って花持ちがよいとかいわれていた。すなわち、ムギワラギク、ユリ、ケシ、アマリリス、フロックス等は蕾の時がよく、カトレア、シクラメン、キク等は満開の時がよい。女史は満開の時に切ったものと蕾(半開)の時に切ったものとを比較したところ、明瞭に蕾の時に切ったものの方が花持ちがよかった。(勿論蕾の場合は満開後より萎凋する迄の平均日数を以て比較したのである)

4. 切り口の大きさと花持ちとの関係

 切り口を大きくした方が水揚げのよいことは明らかである。女史は直角に切った場合(第1区)と斜めに切った場合(第2区)とを比較したところ、概して斜めに切って切り口を大きくした方は水揚げがよく、特に木本類では効果が大きかったが、草本類のごとく茎の軟らかいものではほとんど大差なく、時には反対の影響さえも見られた。

 これはいかなる関係であるかというに、木本類では水分の吸収は主として切り口から行われるが、草本類では茎の表面から行われ、切り口は従的な役割をなす結果である。その証拠には切り口をパラフィンで封じたものと、封じないものとの花持ちを比較したところ、茎の木化程度の大きいものほど、その差異が大きくなり、柔軟なものほどほとんど差異が見られなかった。

 次に切り口を大きくする手段として縦に裂く方法、および茎の基部の樹皮または表皮を剥ぐ方法が行われた。その結果は明らかになんら処理しなかったものよりも花持ちは長かったが、切り口を斜めにしたものとの差異はほとんど見られなかった。同様に切り口を潰す方法もほとんど差異はなかったが、シクラメンでは特に切り口を潰したものの方が著しく花持ちが良好であった。

 以上の結果よりして、切り口の大なるものほど水揚げがよいことからして、茎の太いものほど花持ちがよくなることが分かる。女史も茎の太いものと、細いものとを比較し、明瞭に茎の太いものがよかったことを認めている。

 切り口を焼く問題であるが、切り口を焼いたものと、単に斜めに切ったものとを比較したところ、ある特殊な植物を除いては両者の間に差異は認められなかった。特殊な植物というのはユーフォルビヤ(ショウジョウボクも含む)、ケシ等であって、これらの植物は乳汁を分泌し、そのため切り口は乳汁のため密封されて水分を吸収しなくなるのであるが、焼くことによって切り口に凝縮した乳汁は炭化され、水分の吸収を妨げなくなる結果である。

5.茎の長さと花持ちとの関係

 従来までの研究報告を総覧するに、蘭、菊等は茎を長く切った方が花持ちがよく、エノテラ(つきみそう)、ポルツラカ(まつばぼたん)、ヘリアンセマム(はんにちばな)等はなるべく短く、特に萼の直下で切って水面に花を置けば約5倍も花持ちがよくなるといわれていた。

 女史の試験結果によると、概して茎の短いものほど花持ちがよかったが、その差異は極めて僅かであった。しかしながら、比較的茎の太い植物、例えばダーリア、カレンヅラ(きんせんか)等では茎を長くしても花持ちは悪くはならなかった。特にバラでは茎の太いものは長く切った方が花持ちが一層良好であった。この際特に注意すべきことは茎を長く切る場合には、なるべく多くの葉を茎に着けておくことが肝要で、それは葉からの蒸散作用は結局水分の吸収力を強める結果にほかならないからである。

6.茎を水中で切り直すことと花持ちとの関係

 「切花を花瓶に挿すに当って必ず水中で切り直し、決して空中で切ってはならない。」これが花持ちの秘訣のように言われていた。これは花持ちを長くするばかりでなく、いったん萎凋した花でも間もなく恢復させる唯一の手段のように言われていた。

 女史は水中で切り直す場合と、空中で切って挿す場合とを比較したところ、両者の間にはほとんど差異が見られなかった。更に切花を2時間くらい空中に放置し、それから水中で切り直し、他方は空中で切り直して花瓶に挿し、花持ちを比較したところ、両者の間にはほとんど差異が認められなかった。すなわち水中で切り直すことはほとんど効果がなかった。

 従来から多くの生理学者が主張していたことは、空中で切ると、切り口から導管内に空気が入るので、その後水中に入れてもこの導管内に侵入した空気に妨げられて、下部からの水分の補充が不完全になるから花はしおれてしまうのであると説明している。それで女史は切り口から空気の侵入しないように、花を切ると直ぐ切り口をパラフィン蝋で密封し、前と同様に室中に2時間放置し、それから水中で切り直して比較したのであるが、最初から空中で切って放置して置いたものと大差はなかった。

 しかしもちろん水中で切り直したものは最初から水分の吸収が妨げられないから、空中で切られたものよりも優越を示すが、1時間くらいもすると全く同様になって区別がつかなくなる。したがって女史は導管内に空気の侵入することは従来あまりにも重視されていたほどに花持ちの上にたいした害を及ぼすものでないと結論している。女史の説明によると、切り口から導管内に侵入した空気は、その後から入って来る水によって溶かされてしまうので、空気が永久に残存して下からの水の補充を妨げるということはあり得ないと述べている。

7.切り口を新しく切り直すことと花持ちとの関係

 この問題について、ある学者は毎日切り口を切り直すのがよいと主張し、他の学者は2~3日隔の方が効果的であると述べている。女史は毎日(第1区)、2日隔(第2区)、3日隔(第3区)に切口を切り直したものと、最初からそのままにしておいたもの(第4区)とを比較したところ、試験植物22の中、14は新しく切口を切り直した方が花持ちがよかった。残部の8は何等処理を施さなかった方が花持ちがよかった。しかも新しく切り直すことによって僅かに2-3時間の寿命を延ばすに過ぎなかった、だだしユーフォルビア、ケシ等の乳汁を分泌する植物にとっては、新しく切り直す方が花持を良好にしたのは、ここに説明するまでもないところである。

8.水の取替えと花持ちとの関係

 水を毎日、または2日隔に取り換えると、花持ちがよくなることは知られていた。女史は水を毎日(第1区)、2‐3日隔(第2区)に取り替えたものと、全然取り替えなかったもの(第3区)とを比較したところ、概して毎日新しく取り替えたものの方が花持ち長くなった。しかし両者の差異は小さなものであった

9.切花の水中に没する葉の除去と花持ちとの関係

 花瓶に切花を挿す場合、水中に没する葉は除去した方がよいか、悪いかという問題である。従来の試験報告によると、葉は柔らかい組織から成っているため、これが水中に没していると、微生物に侵されるところとなり、ついに腐敗し、その腐敗した細片が切口を塞ぎ、水の通導を妨げるから、成るべく下葉は除去するのがよいということになっている。女史の試験に於ても水中に葉のない場合は著しく花持ちを長くしている。また水中に葉のある場合では毎日水を新しく取り替えた方が花持ちがよかった。

10.水の深さと花持ちとの関係

 浅水と深水といずれがよいかと、従来の試験報告では花の基部まで水の浸る程の深水にすると、一旦萎凋した花も2、3時間で恢復すると言われていた。しかし一方ブリングスハイム氏等は深水に浸すとなるほど一且萎凋した花でも直ぐに恢復するが、その後一層早く萎れてしまうことを述べて反対している。女史は新鮮な切花と一旦萎凋した切花とを用ひて、深水と浅水とを比較したところ、新鮮な切花に対しては水の深さと花持ちとは無関係であったが、萎凋したものにとっては深水の方が効果的であった。しかし、この際注意すべきことは、水の深さは常に一定しておくべきであって、以前水中にあった茎が中に現われる時には腐敗し易いから水を取り替える時にもこの点に注意しなければならない。

 全部の葉を着けたもの(第1区)、2、3枚の葉を着けたもの(第2区)、全く葉を着けないもの(第3区)を比較したところ、花持ちは全く葉を着けないものの方が長かった。これは葉からの蒸散作用によって失われる水分を防ぐ結果であるが、パンジーと菊だけは例外で、全部の葉を着けたものの方が花持ちがよかった。

 これはパンジーでは葉を着けないように茎の上部で花を切ったために、茎が短く、かつ切口が小さくなった結果である。もし同じように処理したならば、葉のない方が花持ちがよかったかも知れない。菊は元来花持ちよいものであって、通常15日以上も保つものであるが、したがって葉のないものは同化作用によって生成される栄養物すなわち淡水化物が欠乏し、そのために寿命が短かくなるのではあるまいかと想像される。

12.水に挿すまでの時間の長短と花持ちとの関係

 花を切ったら直ぐに水に挿すのがよいか、悪いかという問題である。常識的に考えると花を切ったら直ぐに水に挿すのが花持ちをよくするように思える。女史の試験結果を見ると、切花後直ぐに水に挿すのが必ずしも有効とは言えない。すなわち26植物の中7植物の場合だけ効果が現われたが、残部の13植物は切花後3、4時間してから水に挿した方が効果的であった。特に除虫菊では切花後16時(※間)空間中に放置してから水に挿したものが花持ちは最も長かった。

 これは切花後空中に放任されたものは、水分の蒸発とともに葉面の気孔が閉鎖して来る結果、その後水に挿しても葉からの蒸散作用が著しく減ずる結果である。また空中に長く放任したものを、水に挿す場合に切口を新しく切り直す必要があるか否かを調べたところ、却って切口を切り直さなかったものの方が花持ちがよい結果を示した。これ等の結果から見ても切花後空中に長く放任して置くのは、従来考えられたほど有害でない事、これを水に挿す場合、新しく切り直す必要のない事が分る。ただしユーフォルビア、ケシ等の如く乳汁を切口から分泌する植物は切花後長く空中に置くのは不利であり、空中に長く置いたものは必ず新しく切り直して水に挿す事が肝要である。特にケシ科の植物では花弁が薄く脱落し易いので、開花したものを長く空中に放任する時には有害であったが、蕾の場合では長く空中に放任しても、水に挿す前に新しく切り直せば害は認められなかった。

13.光線と花持ちとの関係

 切花は暗室に置くのと、明るい室に置くのといずれが花持ちがよいかという問題である。暗室に入れると葉や花の気孔は閉鎖するわけであって、したがって蒸散作用は減ずるから切花の寿命も明らかに長くなった。特に葉の大きなものや、茎の木化していないもの等のように蒸散作用の大きい植物ほど、明暗の花持に及ぼす影響は大であった。

14.気温および温度と花持ちとの関係

 従来の試験報告を総覧するに、低温で空気の関係湿度の高い時は蒸散作用を減じ、切花の寿命が長くなること。最適温度は学者によって異なり、0度から12度まであること、湿度も学者により異なり、60度から90度まであること、切花に潅水する方法は特に萎凋した場合に効果があること等が分る。

 女史の試験結果では低温と高湿度とは切花の寿命を著しく高めた。次に塩化カルシュームを入れた乾燥器に置いたもの(湿度30-40%)、室内に置いたもの(湿度70‐80%)、ベルグラスで覆ったもの(湿度100%)を比較したところ、室内に置いたものが概して花持ちがよかった。しかしペチュニア、ヘリアンツス(ひまわり)、蘭等はベルグラスで覆ったもの、すなわち湿度100%の方が花持ちがよかった。多くの場合は温度が高過ぎると花持ちが悪くなるのは、微生物が発生して、かえって害を及ぼす結果にほかならない。それから切花に散水することや、一時的に水中に浸すことや、湿った絹紙で包むこと等は切花後最初の1日だけ行う場合には、著しい効果があるが、その後も続けて行うと蒸散作用をかえって増加し、切花の寿命を短くする。特にこれ等の操作は萎凋した花に行うと一層効き目が大きい。

15.水温と花持ちとの関係

この問題を取扱った論文はかなりたくさんある、だいたいの結果を述べると、新鮮な切花には出来るだけ低温の水を推奨するもの、乳汁を分泌する植物には高温な水を必要とするもの、煮沸せる温湯に短時間浸すのを最良とするもの、摂氏30‐50度の温湯に長時間浸すのを最適とするもの等力がある。

 女史は水温を摂氏30度から100度まで6区に分けて比較した。この際葉は花弁よりも高温、持に上記に弱いので。したがって紙で包むことが肝要である。その結果は概して煮沸せる熱湯に浸したものの方が花持ちよかった。特に乳汁を分泌する植物に対して著しい効果があった。この原因は熱湯に浸された切花はその後の蒸散作用が著しく低下する結果であることが分った。熱湯に浸す効果としては気孔が閉じて蒸散作用の滅ずること、微生物が切口に繁殖して切口を閉鎖しないこと、茎の全表面からの水分吸収が容易になること等を上げることができる。ただし、バラ、ライラック等は熱湯に浸すと蒸気のために花弁が著しく害され褐変するから、これらの植物には応用できない。

 以上の結果を総合すると、花を切る時刻とかその日の天候は花持ちとは無関係であって、日中に切る時にはたとえ一時的に萎凋することはあっても有害ではない。花を切る時の植物の発育関係を見るに、ケシ、フロックス、ムギワラギク等は蕾の時、シクラメンは満開の時に切るのが一番花持ちがよく、菊では蕾でも大差がなかった。切花後の花持ちの長短は、植物の水を吸い上げる能力。蒸散作用の大小の二要因に支配されるものでるから、成るべく水揚げをよくし、かつ蒸散作用を減ずるようにしなければならない。水揚げをよくする手段としては木本類に対しては切口の面積を増大することで、その方法として斜めに切ること、裂くこと、樹皮又は表皮を剥ぐこと等であるが、草本類は主として茎の全面積から水を吸上げるので、特別な方法もあまり効果的でない。乳汁を分泌する植物に対しては切口を焼くのが効果がある。茎はあまり長くすると花持ちが悪くなる。水中で切り直す事は効果はなく、たとえ切り口から導管内に空気が入って水の上昇を妨げても、それは一時的であって、後には殆んど差異が認められない。

 徹生物の繁殖を避けるには2―3日隔に切口を新しく切り直し、且つ水を取り替えるのがよい。そして水を取り替える時には前と同じ深さにしなけばならない。水中に没する葉は除去するのが有効である。蒸散作用を低下せしめるには葉を除くことではあるが、ただし全部の葉を除去する時には吸水力を減ずるから、それを減じない程度に葉を少なくすることが肝要である。花を切ったら直に水に挿すことは重要な問題ではなく、多くの場合3-4時間空中に放置してから後水に挿す方が花持ちが長くなる低温、高湿度は花持ちをよくし、一時的の低温、高湿度さえも効果的である。特に一時的に萎凋した切花は高温度に置くか、または一時的に水中に入れるか、或いは散水すれば速やかに恢復する。切花は摂氏100度迄の熱湯に浸すのが有効で、これは茎の表面から水分の吸収を高め、微生物の繁殖を防ぐ効果がある。

(実際園芸第22巻第5号所載)


  第22巻第5号 表紙 (昭和12年5月号)


実際園芸の編集部に在籍した浅沼喜道氏は昭和12年、日華事変勃発後に応召し、同年10月5日に北支にて戦死、享年29歳。12月に慰霊祭が営まれた。
4年後の昭和16年に石井勇義編にて「浅沼喜道君の追憶」が出版されている(NDL所蔵)
鳥取県出身で京都大学、並河博士の門下。昭和9年に実際園芸社に入り、調査研究部門および
園芸大辞典の編纂に関わっていた。語学に堪能で、英、仏、独、露語、また蘭語などの文献を邦訳して記事にするなど研究者、編集者としてたいへんに優秀な人物であったようだ。石井勇義が人生を賭して取り組んでいた園芸大辞典の編纂にもっとも重要なスタッフであり、膨大な量の園芸書を海外から取り寄せて研究していた。それらは、死後、京都大学、鳥取高農、実際園芸社に寄贈されたことが『追憶』に記されている。


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