昭和2年3月 アメリカの雑誌に掲載されている「花屋の心得」  恩地剛(日本のフラワデコレーターの先駆け)氏の報告

 『実際園芸』第2巻3号 昭和2(1927)年3月号


◇花屋の商売に心得なければならない大切なこと

北米の有名な花屋が、花屋としての成功は、次の心得を店則として守るにあると発表しています。たいへん有益なものだと思うので、御取次して、御紹介いたします。 

一、店が明くて、清潔で、活々として、総てが自然と客を引きつける様でなくてはいけない。

二、花の売り方も、一本、一枝、いくらという様にしないで、一束でいくらという様に、ちゃんと整えて置いて、一纒めた花を売り、客につり銭の少額を出すという面倒のいらない様にしたい。

三、その地方の状況や、住宅地の経済状態に通じて置き、カーネーションくらいしか買わない土地の人だと見たら、無理にも蘭などを売らない事。

四、蘭科の花を喜ぶ様な富裕の人の住宅地方では、パンジーの様なものはあまり取引しないがいい。

五、店員は悉く花の愛好者でなくてはならない。少なくとも、花に趣味を持つ人であって欲しい。ただ月給のためのみの働きで、花を普通の商品のつもりで売りさえすればいいという様な性格の人は、花屋の店員としては適していない。

六、顧客に対しては、客の自由に任せて其の心を読み、決して押売りに流れてはいけない。

七、店員は、第一に小綺麗な人で、また綺麗ずきの人でなくてはいけない、頭髪を竹やぶの様にぼやぼやさせたり、着物の汚れたのを皺だらけにして平気でいる様なのは、花屋の商品と調和しなくていけない。花店は栽培場とは全然違っているのだから、総てを綺麗にし装飾的でありたい。  

八、顧客と約束した事は、必らずその日の中に實行する様に勉める事が大切である。例えば、運送上の事、商品の選択、色、新らしさ等に至る迄で、註文とよく一致する様に務めなくてはいけない。

九、貸売りもしなくてはいけない、しかし、あまり大きな高になって、書き付や、請求書を送った時に、客の方で意外に思わない様に、少額の中に請求して置くがいい、違算などの訂正は急いでなし、時日を多く経過しない中がいい。

十、贈答品の荷符などに、自己の店を広告したい意味で、特別に人目を引く様な、装飾的のものを使用するのは顧客の信用を害する。

その他には、万事によく行届き、客に親切に、また礼儀正しく尊敬の意を表し決して軽佻浮薄薄に客を取扱ってはいけない。花に対する親切な説明、装飾や宴会の注意、その他結婚、葬儀などの花に関する万般の事に、惜みなく好意を以て説明する。こういう風にして行くならば、きっと成功疑いなしと記載してある。(恩地)


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