昭和29(1954)年の花作りマーケティング。どこに「穴」(出荷のねらい目、有望な品種)があるのかについてエキスパートが語り合った

元 大日本園芸組合理事長 湯浅四郎氏
生産者 吉村幸三郎氏

東京園芸市場社長 佐藤春吉氏
日本生花市場協会・協会長
東京園芸市場の住所は
台東区東上野2-18-20
もとは、現在の秋葉原駅がある場所、
東京中央青果卸売市場、神田分場の中にあった

花喜久 辻本恵一氏

※花喜久は大正12年4月創業 有楽町、神田に店舗があった(当時)マミ川崎氏が彗星のごとく現れた1960年代の初頭に講師として招いてフラワーデザインの勉強会を開いたという。 (『花と幾星霜』から)


『農耕と園芸』1954(昭和29)年 3月号

座談会 「花作りの穴をさぐる」

実施日
1954年1月14日

出席者
前農産商会社長 湯浅四郎
東京園芸社長 佐藤春吉
生産者 吉村幸三郎
花喜久 店主 辻本恵一


小松崎
最近、多くの読者から今後どんな花を作ったら有理か、いつ出荷したらよいか、言葉をかえればどこに花作りの穴があるかというような質問に度々接します、これは花を作る人のだれもが知りたい点です。幸、今日はこの道の先達である皆さんからズバリと御明答をいただけますことは、まこおに有難いと存じます。では湯浅さんに司会をお願いいたしまして…。
湯浅
最近花の生産は戦前を上回る状態ですが、このままでには生産過剰になるので、消費宣伝によって、消費面の開拓をやらない以上生産者も大いに考えさせられると思います。
生産過剰の対策としては、よりよき品質のものを、安く作ることが本命であることは何人も異論のないところですが、本命だけを追うことは安全な代りに面白味も少ないので、生産の何割かを、出荷の穴をねらって作ることも得策かと思います。
穴のうちでも、出荷のうすい時期をねらうのが中穴、小穴で、今後の情勢の推移、嗜好のうつりかわりなどの見通しをつけて、将来人気の出るものを作り、人より一歩さきに人気を博する大穴をあてるのも一策かと思われます。
では、一つの大穴、小穴の目標になる秘蔵のお話をどしどし出して下さい。

穴をつかむには

佐藤
むずかしいね。穴というやつは…。戦後三年ぐらいはこの辺にこんな穴があると言い切れたが…。
吉村
こわくてね。(笑声)
佐藤
というのは、戦後に新しい生産地が非常にふえ、次々といろいろな花がでてきますからね。なかなかいえない。
辻本
いっていただかないと困るね…。
湯浅
ズバリと一つ…。
佐藤
皆がねらえば穴じゃない。もう一つは非常に天候に支配される。例年だと十一月はキクがあふれて一年中一番安く、カーネーションも十一月には売れない。ところが昨年の十一月はばかばかしい相場が出た。大穴だった。
辻本
今までに例がない。
吉村
去年は単価から見るとキク全体が最良の年だったですね。
佐藤
しかし十二月は暖冬で二十五日までは安値――。一番打撃をこうむったのは温室物、促成物。とくにクリスマスの力ーネーションが下がっちゃった。ところが二十六日になったら一気に飛び上った。二五日にコーラルが相当のもので四〇本二〇〇円ぐらい、二十六日になると四〇本で八〇〇円、一、〇〇〇円。二十七日は一、四〇〇円、一、五〇〇円まで行きました。バラも同様でした。まァ温室物の大穴は十二月二十六、七、八、九日と売れたが、三十日には下がった。それも大穴はカーネーションとバラだけで、ほかの花はあまり釣られなかった。

逆ばりも一つの手

辻本
結局穴というのは、作り屋さんが逆ばかりをするということが効果的じゃないか。それをやるには広い視野にたって各々の生産地の作付を横にながめ、さらに絶えず経済界の動きをにらんで行く
吉村
たしかにそうなんです。

消費宣伝も大事

湯浅
大体花の生産は、戦前に比べたらむしろ多いでしょう。
辻本
非常に豊富になって、営業がやりやすくなった。今後は、いかに生産者、市場、小売店が結んで、より広く大衆によびかけ、より以上お存様に買っていただけるようにすることが、大切だと思う。つい先日青物が安かった時に青果市場でラジオを通して、青物を召しあがらないと栄養に欠陥ができるとやった。その一言で非常に消費がふえた。
湯浅
ぼくもあれで青物を食うようになった。(笑)…結局これは消費宣伝をうんとやらなければだめですね。

よいものを大量に安く

辻本
小売側から申しますと、結局生産コストをうんと引下げても採算のとれるように作っていただきたい。安ければ消費面が増大します。
佐藤
その点、私ども各産地に何の花の産地にするかという見通しをつけて、大量に作ってもらいたいといっています。例えば清水の三保ですね。あすこは抑成のトマトをやって、つぎにキュウリをやる。そのあとが遊んでいる。そこを花に利用して温度処理による球根の促成を大量にやれば必ずうまくいく。これが悪い時には球根代だけでガマンするという覚悟でやれば、相当量出せる。設備のあきを利用するのだから生産費はかからない。そうして三保の何々というふうに大産地になりいい品を出せば、安くてもそろばんに乗るというわけです。今はよほどの天候異変でもない限り、花の生産は飽和状態に来ている。だから市場としては、仕切書を見て荷をつくるという荷主さんはどうでもよいのです。いい花を年中連続に出荷してくれる荷主さんが相手です。

世の中の大きな動きをつかむ

辻本
総括的に穴をつかむには花の用途面の動きを生産者が知ることです。それには市場を知ること、さらに一番先端を預かっている小売店の声を聞くことですね。結局客の動き、それから花道の動きを産地がいち早くつかむことが有利じゃないか。
※まだフラワーデザインは知られていない。1962年のマミフラワーデザインスクールの創立を待っていた状況

湯浅
今までは市場を知るだけ。
辻本
一番先端を預かる小売と生産地が結ぶことも大切だと思う。それから生花界の動きは、今まで枯れたものとか、塗ったものを非常に使ったが、本年あたりは、それらを脱却して、もっと内容のあるものに変わると思う。だから枯れたものや塗ったものは、おそらく時代からズレができる。その動きを追っかけるのじゃなく、ともに歩くという状態に産地がなることが必要です。
吉村
動きをつかまえれば…。
湯浅
穴が早くつかまる。
佐藤
動きも、広く芸術界の色彩の動きをキャッチすることが、大きな角度からの穴になるのじゃないか。
吉村
植物の色合いも…。
辻本
広い視野を持って、アメリカの流行色、英国の流行色は何か、それから見て行く、日本の動きは一応黒から脱却した。すでに黒は昨年で終止符がついた。今年は白から出発して、白がどう出るのかというようなう動きですね。
小松崎
というと具体的には?
辻本
中間色のいいものを出せば絶対いい。
佐藤
今まで冬の間は赤が最高線を行った。それが昨年の暮は黄色系統、それから中間色のはっきり鮮明な色が売れた。
辻本
最近はダリヤの中間色の花でヨソオイが他のダリヤよりもいつもよい。
吉村
桃色のちょっとサケ肉色の変わった色ですね。バラではマリー・ハート。ただ、あれはどうも裂けるが…。
辻本
最近螢光灯を使うので、中心色のマリーハートはその下で非常にさえてよい。螢光灯がふえているということも、消費地の生活様式の変化ということも栽培地ではっきりつかまなければならないね。

カーネーションの穴は

湯浅
カーネーションの穴はどこにあるかね。
佐藤
大体これは平均していて安値はないが、五、六月の温室の入れかえ時が値がよい。三月もいい。まずここが穴ですね。
吉村
信州の露地もでないし…
小松崎
そこを技術的に解決すれば味がありますね。
佐藤
その点、最近神奈川、東京近郊が、露地栽培でそこに狙っている。
小松崎
信州でも自分で温室を持ち、そのころに出すように苗を養成すればよいでしょう。
吉村
それをしなければうそだ。東京近郊の苗を手に入れたのでは早く出ない。
湯浅
暮出しは穴にならないかね…。
辻本
カーネーションは暮から正月の初めにかけて需要が逐年ふえてきている。センリョウなどは非常にズレが出て、正月初めにはカーネーション、チューリップ、テッポーユリ、バラに切り変って来ていて年末にいい相場がでた。

品種ではやはりコーラル

湯浅
品種ではコーラルが全盛だが、あと何かないかね。
吉村
ウィリアム・シムは?
辻本
シムは型がよいので、優秀なものですと結構ですがどうもつやの悪いのが多い。コーラルが型も持ちもよいし、お客様はあきない。価格も適正で買いよい。カーネーションであきがさたのは染色ものです。
吉村
何か不幸の花みたいな気がしますね。
辻本
着色がいろいろと進歩して、最近よくなってきたのにお客があきちやった。

チューリップでは

湯浅
つぎにチューリップはどうかね。
佐藤
チューリップは大体一昨年まで、暮が大穴だった。ところが昨年あたりは温度処理の方法が完成し、九〇%から一〇〇%まで 咲くということで、暮を狙う傾向が強くなった。そこへ暖寒異変で花が早くなった。小売層では品物は古くなくとも、咲いていると買わないので、利益があがらなかったです。
辻本
暖冬異変のしわざですね。
佐藤
正月に入っても、そのたたりがひどく、温室者はさんざんですよ。

露地もののでる時

辻本
チューリップで毎年高いのは、結局露地の出る前…。
吉村
私のとっている統計でもそうですね。大体三月下旬から4月上旬…。
湯浅
ずっと遅いのは?
辻本 それは、うまみがないね。
佐藤
しかし上越国境に近いところのごく遅いものは売れておりますね。
吉村
あれは特別の地帯だね。
佐藤
一般的の穴は、やはり露地と促成の切れ目ですね。
吉村
球根は比較的高いでしょう。露地の一寸前というのは…。それは度胸を決めてやれない。ほんとうにいい球をあすこに当てようという度胸がない。そう度胸があったら促成をやっちまう。
佐藤
遅いのは一般に東京に持って来てから持たない。上越国境の山だと、ずいぶん遅い。こっちへ来てから寿命がある。

品種での穴

湯浅
チューリップの品種で穴はないかね。
辻本
一番客の好むのはピットです。
吉村
レッド・ピットは?
佐藤
あれは球根がいくらか高く、花の価格に大差がないのと、花が遅れるらしいので、促成としては…。
湯浅
感度が悪いのでしょう。
吉村
形がちょっと崩れる。
佐藤
市場ではレッド・ピットも普通のピットも差がついて来ない。それから最近ゴールデン・ハーベストの年末促成によって、非常に成績がよい
吉村
球根が高い。
佐藤
球根が高くても、市場でも差が球根以上に出る。そうして温度処理、感度が非常に強くて、案外ローズが少なくて、ほとんど九〇%以上、そうして品物が非常に優秀です。やはり新しい品種で、温度処理が完全にきくものが、一つのねらいになりますね。

スズランは有望

辻本
スズランはアメリカで年間通じて出ている。ところが日本は一時で、あと温室ものが少し出る程度です。これを何とか一年中出せませんかね。
吉村
結局芽がないのですよ。
佐藤
今後洋式の結婚披露か必ずふえる。現在は使いたくてもないのです。それで新潟の高冷地の方は適地なので、そこで百万芽を目標に生産してくれといっています。百万くらいなければ問題にならんです。それはいい芽ができますよ。
湯浅
長野県でもやっている。
佐藤
新潟の方が雨量関係からいいものができそうです。
吉村
輸出対象としてスズランを本気でやる。もしだめでも内地で使えるのじゃないかと思う。
湯浅
促成は、三週間ぐらいで…。
佐藤
温度処理が進んでおりますから、芽さえあれば十分出る。
辻本
スズランは年間出ておれば売れる花ですよ。信州では野生のスズランを非常に安売りしているが、あれは商品価値がない。 

グラジオラスの人気は

湯浅
今グラジオラスに人気が出ている。
佐藤
グラジオラスは大穴もありましようし、これは市場側でももう少し観賞価値を高めていただきたいね。どうも仏花以外には使いたくないという昔の気持を捨てたいね。夏花には相当種類もあるし、大輪系も多い。グラジオラスが一番高く売れるのは北海道ですよ。十二月から一月中、昨年の例で言えば、五〇円、六〇円でほとんど北海道に出ちゃった。
湯浅
東京でも商品価値を上げればよい。
佐藤
ところが小売屋さんの方でグラジオをブルブルで片づけ、高値には買わない。ところが北海道ではダリアとグラジオは夏の主体の花ですから、それを売らなければ花がない。
※グラジオラスを「ブル」と呼ぶのは明治期に横浜の鈴木清吉氏が広めた「清吉ブル」というのがあり、歴史は古いようだが、その由来は不明。鈴木清吉は輸出向けテッポウユリ栽培の最初期の人物だとされている。

吉村
北海道以外ではあれだけ売れない。
佐藤
またダリアの花は、八月でも、満開の花が五日は見られる。色彩が非常によい。グラジオでも三輪ぐらい咲いたのを畑から切つて来る。
辻本
東京では今暖地栽培の早出しグラジオがわりに人気があるが、あれは非常に生産コストがかかるのですか。
佐藤
現在ではかかります。
吉村
ローズ(※ロス、廃棄)もかなり出る。
佐藤
産地は伊豆が多い。今出ているのは抑成球ですが、乾燥時に植えたのは、全部ブラインドしちゃって花が咲かない。植えた球根の十分の一ぐらいが東京に入っていない。涙が出ると言うのです。これを八丈で研究しているが、どうなるか花色は田子のにおとり、ブラインドも出ている。
吉村
ヘクターやラディアンスは、促成にどうですか。
佐藤
ヘクターは鈍感ですが必ず咲く。ラディアンスはうまく咲けば早く咲くが、ブラインドにかかりやすい。もう一つ、咲いても商品価値はへクターよりも落ちるレッド・チャームはよくでき、ヘクターよりも色合いの関係で売れますね。
記者
抑制のブラインド?
吉村
促成です。
佐藤
促成も抑制もある。田子のは抑制の場合のブラインドです。十一月から一月にかけて咲くべきものにブラインドがおこった。 
吉村
秋口の乾燥ですね。
佐藤
ちようど植えた頃、半月ぐらい雨がなかった。
湯浅
むずかしいね。
佐藤
ですから現在の状態ではグラジオは十二月、一月、二月という気候が穴でしようね。
小松崎
そこを技術的に解決していくことが穴ですね。
吉村
二、三年来露地栽培で比較的安全な穴と見られるのは八月ですよ。特に例の薄青7の系統、他のいい時期のものよりも高く売れている。
湯浅
薄青のいいものがないのでしょう。
吉村
いやあるのです。(笑声)
しかし紫系統ではだめです。
佐藤
小売屋の消費面からみた将来は…。
辻本
どうもグラジオは、新しい生花に利用される量が非常に少いのです。
吉村
どういうわけですか。
辻本
それは姿が使いにくいと言うのですね。
吉村
やぼったい?
辻本
そういう感覚ですね。もう少しあれが――コロニーというのがありすね、あれが非常に売れる。グラジオは一体に姿があまりどぎついのでどうもお客がいやがる、先生方が敬遠する。どうしても新しい感覚のものが出なければ…。
吉村
たとえばねへクター式な非常に太くてガッチリしたのは確実に売れる。細くて線で行くやつは売れない。どうもおかしい。この方が使えると思うのですがね。
辻本
それは市場のせり台の頭が古いのですね。(笑声)
湯浅
飛ばっちりが來たね。
吉村
お宅みたいな小売屋さんばかりならよい。これを生かしてくれるように一つ啓蒙していただきたいですね。
湯浅
吉村君の好さな小輪種がよい。
吉村
私は三年ぐらい前からオク咲きのレッド・ボットンというのを作っておりますが、よく売れています。

キクは周年の花 問題は多種多様

湯浅
次にキクですが…。
佐藤
日本の花市場として、また花卉業界として、キクは年間通して出、まず総体の七割ぐらい占めている。
辻本
いつも信州が非常にいいところをさらっているようだが…
佐藤
生産状況からいうと、そうでもない。これは一番信州にさらわれる感のあるのは、近在のキク作り屋さんなのだ。江戸川地区で今までのようなキク作りはほとんど全滅状態だ。
吉村
信州は中輪ですが、近郊ではごく大輪物です。
辻本
現在大輪系統を近在で奨励しておりますね。
小松崎
小ギクはどうですか。
辻本
小ギクは筋のよりものは結構だが、多量に出ると安値になるのです。
吉村 九月の色物の小ギクならば、必ず穴になりませんか。
佐藤
市場から見て、例年八月末から九月にかけて穴ですね。

新しい産地

辻本
産地ですが信州もので、南信はちよっと遅れるが、いつも質がよいように思う。昨年は雨が多いためか、北信のものもよかっ た。それから新しい産地の山形ものが非常によい。
佐藤
戦前も山形市の近郊には相当キクが作られて、東京でも二、三扱いました。
辻本
気候とか風土の関係で、山形のものは質がよいように感ずるのです。あすこで相当量やって行けたら、信州を凌ぐのじゃないかという感じがする。
湯浅
キクは冷涼な気候の方がよい。八戸なんか日本一です。東京あたりはどうもいかん。

夏ギクは進歩

吉村 ナツギクの大輪のよいのが、秋にかけて、だんだん出て来ましたね。もう一歩です…。
佐藤
ナツギクの品種改良が行われ非常に簡単にいく関係上、二、三年来からうかび上った電照ギクはコスト高の点で置いて行かれるのじゃないかね。もう一つは苗の温度処理ができるという点から、二月には相当いいキクが出るじゃないか。
吉村
電灯照明とか、その他の技術の進歩と相まって、品種改良がそれに伴って、ますます進みますね。
湯浅
温度処理のよいものを作れば穴だ。

うける花色は中間色へ

辻本 キクではしまりがよく、水揚げもよいことがポイントで、あとは葉型と花のバランスがとれたもの、非常に花の下が長いもののもいかん。ところが最近新しい生花で、立派なキクの葉をとって使う。生産者から見ると涙が出るというのですが、さて生けるお客様の側からいうと、やはりいいものを葉をとって生け上げた方がいい作品ができると言って、いいものをつぶして利用なさっている状態です。
吉村
色彩については…
辻本
これは時期によって違います。白はとにかく用途が多いですね。次に黄色。
吉村
その辺が、やはり色彩としての本命ですね。
辻本
あと赤系統がよい。。ピンクもよい。平均して…。それからもう一つ、色彩の傾向ですが、これはキクに限らず、どの花でも中間色のうるわしいものが非常に好まれてきたが、それがない。中間色でいいものができればこれは絶対に穴ですね。
吉村
新東亜のピンク、あれはまずいですか。 
辻本
いいけれども、水につけると色がさめる。
佐藤
やはり、市場側からいうと、大量に作るものは白と黄色、あとは中間色。それから自分のいいと思ったものを入れる。

大穴?小穴?

湯浅
すばらしい大穴のネタをだいぶ知っているはずだが…。
吉村
言ってしまえば穴がなくなる。(笑)

生花方面の勤き

湯浅
今の生花方面から…。
辻本
変ったことを追っかけていると、ずれて来る。変わったことを一応タナ上げして行く。
湯浅
それがほんとうの大穴なんだ。(笑声)
辻本
とにかく今年の動きは、今までのマチスばりのものは一応時代からズレが出ているということは言えるのです。染めたカーネーションがお客さんの感覚から離れたと同じ状態です。
吉村
勅使河原さんのあれを見ても、去年と今年は大分違って来ましたね。大分ほんとうの花を使って来ましたね。
辻本
結局花の本然の姿というものが一番味があって、その自然をいかに時代に沿った生花にするかということが、今後の課題で枯れたものや塗ったものは過渡期です。すでに関西の方は――マチスばりの超自然のものよりも、結局自然を活すという方向に急速に変りつつあると関西からきた方がいっていました。
佐藤
近くの適地で大量によい花を作って、安くても市場に供給ができることが、大きな産業の穴でしようね。
吉村 だれでも、いつでもよく作れば、必ず売れていますからね。
湯浅
結局それは本命だが…現在では本命をやりながら、穴を少しねらって行く、そこに面白味がある。

小ギクで大穴

佐藤
まず去年の大穴と言うと九月、十月埼玉から小ギクが出た。一反五畝ばかり作って約七、八〇万あげた人がある。これれは大穴の筆頭でしょう。
湯浅
小さいキクで大穴というわけですか…。

アカメヤナギ

湯浅
木物では…。
辻本
アカメヤナギは生花、盛り花、装飾花によいし、用途が非常に多い。
佐藤
だが、相楊は割合に出なかった。三年前の相場はすばらしかったが…。
辻本
大体神田、浅草あたりの普通の相楊で、五わで三百円前後です。
湯浅
いい値ですね。
佐藤
しかしアカメヤナギの本当によくついたものは、まず生産量の一割ないでしょう。
吉村
アカメヤナギのいいものはなかなか出ない。コウリヤナギなら出る。

西村テッポウで穴をうずめた

湯浅
ユリの穴といっても、昔ほど盛んでないが…。
吉村
それは結局西村テッポウが出て、一年中出荷されるようになり、穴がなくなっちやった。
湯浅
いいものを作るということにおちつきますか。

ヒメユリであてた話

記者
小穴でひとり楽しんでいるという穴はないのですか。
吉村
それはちょっと言えない。四畳半でなければ…(笑声)
佐藤
ひとり楽しんでいるのはヒメユリ、うまくできたれば、ひとり楽しんでいられるでしょう。いつの時期にできても、量的に不足しているし…。
湯浅
ある人が去年ヒメユリの切花と球根で五〇万円あげた。切花が一五万、球が一〇万以上売った。種子が六升ばかり、みんなで五〇万円になる。元が四万五千です。三升買いたかったが、なかったから二升だったのです。
記者
どこですか。
湯浅
それが穴ですからね。(笑声)上州です。渋川の山です。
吉村
ユリにはこまかな穴を探せばありますよ。
湯浅
相当たくさん出たので騒いだ。
吉村
時期がずれれば売れる。
湯浅
だれでも球をよく作れるとは言えない。技術でね。土壌消毒が一反歩約一万円。

バラの露地に妙味

佐藤
バラの露地栽培もひとつの大穴だろうね。
吉村
信州でバラを作ったらどうかと言われているのです。向うのねらいは、東京のカーネーションは一日しか持たないが、信州のカーネーションは非常に持ちがよい。同様の筆法で夏のバラをねらったらどうかというのです。
佐藤
私も二、三年前から奨めておりますが、栽培技術がないためにうまくいかない。
吉村
白の花を簡単にずっと続けて出したらよい。カレドニアかホワイト・キラニー。
辻本
カレドニアというのは水につけると――普通のバラですとずっとふくれるが、あれは一枚ずつポロポロッと来る。それがためにきりまえのよいものは、白ですから、輸送に非常に困難です。
吉村
結局ホワイト・キラニーになる。
辻本
いいですね、さりまえだったならば…。
佐藤
信州のバラですと、きりまえがよければ二日は違いますので、大いに奨めていますが、うまく行かない。
吉村
寒がる点もあるのです。普通こっちの技術で剪定されるとちよっと困るのですね。 

品種改良の穴

湯浅
品種改良の方から言って穴がありそうだな、吉村君は…(笑声)
吉村
それを言うと、飯の食い上げになる。
佐藤
生産側で新しいものを見る目のある人が作れる。
吉村
そんなことはない。私たちが作ってもだめです。グラジオの品種がそうです。市場に出す花はごつい花でないと売れない
辻本
結局何と言うのでしょうか、市場の習慣、花屋の習慣ですね。ほんとうに価値のあるものが価値によって取引されないで、価値のないものが売れるという珍現象がある。それがセリ制度で、習慣で商売する。

気転であてた話

記者
去年のスカリオサですが、あれがどういう花ですか。
吉村
あれはリアトリスです。あれにはこういういきさつがある。戦争中リアトリスだと公定二銭です。私の品物を便利屋が持って行ってくれたが、リアトリスだと二銭だから、ほかの名前で出せ、スカリオサで出した方がよい。それが一部の市楊でスカリオサで通っちゃった。
佐藤
大穴だね。(笑声)スカリオサなんか今のお客の感覚に合いますね。

ダリアやグラの輸送

佐藤
長野県からダリアの大輪の開いたものか、グラジオの三輪ぐらい咲いたものが完全に輸送できれば、大穴になるが…。現段階の輸送状況では望めないが、定期トラックを使って箱を使えば、もう輸送で荷がいたむということはなくて済もう。今のは全然つぼみでしよう。色はいいけれども、結局つぼみのために、売る時には薄ぼけた色になるから、結局花屋さんは買わない。とにかくあの色彩そのまま売れれば大穴になる。
小松崎
ダリアによい匂いが出たらすばらしい穴になるね。
吉村
ちょっとむずかしいね。

セッカものは

湯浅
今の石化ものはどう?
辻本
石化は依然用途が多い。
佐藤
石化の穴と言えば、白花の石化エニシダ…。
吉村
白花のエニシダは石化しないでもよい。最近の傑作です。
佐藤
戦後、岡山で白花の石化エニシダをやったが、いいですね。
吉村
あれは石化だから、花のない時期には花のない時期に作るときめている。
佐藤
大島からなら晩に行(※運)んで朝東京につく。
辻本
ただ輸送にむらがある

本命と穴

湯浅
最後に栽培家として穴をどういうふうに利用するかということですが…。
吉村
花作りは投機的な人が多い。穴々と騒がないでも、自分でこっそりやって穴を探してるよ。
湯浅
穴ばかりねらわないで、本命をねらって時折穴をねらうということでしょうね。
辻本
今の経済状態から推して行っても、そうしたことがほんとうの事業じゃないでしょうか。いつでも経済から浮き上らないような本命と穴をうまくくみ入れて
湯浅
今の穴は、穴でもそれほど深い穴はない。すぐ埋まる穴が多い。本命で経済を押えて、穴はくっつけて行くところに妙味がありますね。
小松崎
ではこの辺で(おわり)


 

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