昭和14年のアルストロメリアの栽培法

 『実際園芸』第25巻5号 昭和14(1939)年5月号

切花にも花壇植にも美しい

アルストロメリアの作り方

吉村農園農学士

吉村幸三郎


代表的な花の美しい品種

 アルストロメリアは普通球根植物として販売されているが、軟い塊根を持った宿根草としで取扱われるべきものと思う。鮮緑色の茎を持っていて草丈は三尺内外となり、その頂きに百合状の花を五、六輪つけて、切花として大変に価値の高いものである。花の美しい人気のある品種を紹介して見ると次の様なものがある。


シッタシナ

は古くから広く作られているもので、渋い暗紅色に一寸緑をつまどった様な色彩であるので、あまりじみ過ぎて大栽培には向かないものであるが、家庭用とか少量ずつの出荷には適している。


オーランチカ・スプレンデンス

比較的珍らしい品種であって、丸弁の橙黄色の花を着け、鮮明な色彩と花持ち、水揚げ共に良好なところから市場向として申し分のないものである。普通は橙黄色であるが、時にはオレンジ色のかからない純黄色のものがある。之れは多分ルテアと云われる品種ではないかと思われる。数年前から私の輸入しているルテアと此の混合品とを比較しているけれどもそういう点は見受られない。


チレンシス・ハイブリダ

殆ど販売されていないが、少しく矮性で丈が二尺位である。小花梗は他種よりも伸びる。色彩には普通桃色、黄色或は紅色及びその中間色等いろいろあるが、時には非常に鮮明な色彩のものがあるので此の様なものは将来面白いものではないかと思う。 


作り方の要点


 有機質の多いあまり乾燥しない土地に植えるようにするのがよい。植付けは春秋何れでも差支ないが、深さ二寸位に植付ける。非常に深根性の植物であるから、一度植付けたならば数年間そのまま育てた方が花立が非常によい。植付た年には殆ど花は見られないようである。塞さには強く、東京附近では霜除の必要はない。五月頃に夜盗虫が好んで卵を産付けて、大変に害を与えるものであるから、豫め砒酸鉛(ひさんなまり)を撒布して防ぐようにする。

 肥料は大して濃いものは必要なく、寧ろ堆肥とか藁を夏に敷いてやり、それを鋤き込む程度で十分である。植付の距離は五寸から七、八寸位でよい。植付たものがあまり大株になったら手で分けられる程度に株分をしてやるようにする。初めての年は太い根をバラバラにして、それぞれが一つの植物の様に考えられているようであるが、必ず横に張った茎をつけるように注意しなければならない。


実生からの仕立方

 種子は割合に大きい堅い丸いもので、春播にすると殆どその年に発芽しないから普通秋播とする。秋播にしたものは直きに発芽することもあるが、多くの場合は冬を越して翌春に発芽するものである。春播のものも前に述べたようにその年には殆ど発芽しないで、矢張り翌春になるから労力の経済から考えても行わぬ方が得策である。

 種子を播くには発芽迄の期間が長いから箱播にするのがよい。播土は壌土に少量の腐葉土を混ぜた程度のものがよく、他の草花の様にあまり膨軟な土を使う必要がない。間隔は五分、覆土は一分位とする。点播(てんばん)または條播何れでもよい。播いてからは水を切らさないように常に注意しなければならないが、私は乾燥を防ぐために水苔を細かく刻んでそれを上に薄く覆うようにしているが、手数が大変に省けて便利である。秋播のものはフレームに入れて置く。

 翌春発芽したものは夏に向うと暑さで地上部が枯れて休む場合があるが、秋に掘って見ると小指位の球根が出来ている。それを畑に距離二寸位に提出して、霜除を兼ねて堆肥の類を一寸位の厚さに覆ってやるとよい。普通発芽してから二、三年で開花するものである。(終り)

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