一年間水をやらなくてもだいじょうぶ! ふしぎなグラスガーデンについて 昭和7年
『実際園芸』第12巻第1号 1932(昭和7年)1月号
アメリカで流行のグラス・ガーデンの話
小石川植物園 持田次郎
一ヶ年潅水しないでもよい
ここ約百年余の間、ワーデアン・ケース Wardian cases が香りよい花を長く持たせるために、植物学会や営業栽培者等によって用いられた。しかしこれらの念入りな装置は実に小さな温室ともいうべきもので、多数の素人にはとてもできる事ではない。セント・ルイス園芸協会のルスバリー嬢の考案によって、普通の金魚鉢を用いてその中に植物を栽培するという事を発見した。そしてこの事は百貨店や場末の植木屋や最寄りの花屋等誰にでも容易に取り扱うことができた。バリー嬢の養魚室はこれらの新しい発見によって、この数ヶ月内に非常に有名になった。園芸協会の春の展覧会においてはこの金魚鉢内の植物栽培が有名なために、このものだけ特別に区画された。そして植物園から、特別賞を五十以上も授与された。バリー嬢によって見せられた一つは2ヶ年の間に2度潅水されただけのもので、他は有名な物理学者によって公開されたもので18ヶ月に一度だけしかは潅水せぬものであったが、非常にその栽培はよい成績であった。もちろんこの展覧会において行われた競争の主なる点はこのガラス内の植物が潅水もせず、注意もせずどのくらいまで生育するかという事にあった。この奇妙なそして人目を惹く栽培は30分内に面白くできるという事であって、花屋に10分も待っているか、または午後の散歩に最も近い森林に行ってできるものである。一度植栽すれば直接光線の当たらぬところ、すなわち日陰のところで生育するのである。おそらく6ヶ月に一度か一年に一度潅水をおこなえばよいので一日ないし7日目に10分ほど通風を与えればよいのである。換言すれば、これらのものはかくのごとくの特色があり、囚人的のものである―すなわちこのガラス庭園は誰もが自分で造れるものであるからである―困難な事は少しもなく、そしてほとんど他の生物と同様手がかからぬが、家蝿(イエバエ)や白花朝鮮朝顔は例外である。奇態な装飾用ガラス入れが種々用いられる。すなわちこの写真が示す通りである。しかし最も便利なものは非常に横平たい入れ物か、または非常に扁平な円筒状のもので、すなわち両側が平たい金魚鉢がよいのである。これらは百貨店に行けばある。そしてこの両側が平たいのは人が見るのに都合がよいためである。このガラスはきれいでなければならぬ。植物が栽植されて、色が付いたガラスでは、中で生育せぬためである。
造り方
最初木炭を一掴み底に入れて、土を清潔にする。次に一掴みの破れた鉢片を入れる。または石コロでもよい。この中に入れる土はほとんど植物が変わっても適当であると試験されたもので、腐葉土と砂を各1の割合で混合したものである。しかしもし地植えの植物を栽植したいと思うならばよく腐蝕した腐葉土と砂を2と1の割合で混合して栽植する。それらを金魚鉢に入れた後、植物が栽植されぬ前に約3分の1の所まで植物を栽植する。苔や色のついた石は平たい側に入れる。苔は小さな森の上に生育する。土の表面は実際の森を思わせるように小さい岡や谷のようにする。このことは非常に重要な事であって、もしも地植えの植物を用いるときは製作者は充分考慮して定める。そして多くのものは色のついた異国的植物が欠けているために、それを補うため少しばかり装飾的手腕が必要である。そして一つの大きな熱心な、グラス・ガーデナース glass gardeners の学校では、適当な種類の森林の植物を探すことがこのガラス栽培の遊びの半分でもある。
一年、ことに12月中は都市の近くの森の中の小さな小川は苔が多数ある。また冬の間は葉が落ちてその下に隠れて羊歯が生えている。松の実生やヒマラヤ杉やスプルスが3インチぐらいも積もった落ち葉の下で発見される。土の中に生育している苔の多数が使用される。そして小さなはっきりした、または鉢状の岩の破片が、よく装飾用に用いられる。小さな根を切ったベゴニアはほとんど直接花が咲き色彩も加わってくる。この点、実際植物を植えてこの小さなガラス内で植物を栽植することは、クリスマスツリーを装飾すると同様な感動を受ける。個人の意志、知恵忍耐は一定の大望(たいもう)の目的を遂行するかどうかを決定するものである。あるいはかの材料をかんたんに置いても色のついた光やピカピカ光る金具を最も一般的に取り扱う。両方の方法とも満足なそして人目を惹く結果になるように導き、各自それらはよく固定している。いずれの場合においても大きな植物は人々の思いつきによって最初に植える 小さな岡や、小川のところは種々な苔が植えられる。装飾の岩や貝類を用いる。また設計者は道や小径(こみち)や橋や反対側にシェラック(Shellac)で湿気のかからぬようにした小さな鏡で造った湖、または小さな木の下に仏像や人形を置くような景色を造り出す。
そして一度庭を造ったならば土の汚れをガラスの中から取り去り、その金魚鉢はガラスの四角い窓ガラスかガラスのコップで蓋をする。そして北窓のところに置く。そのガラス内の栽培はそれ自身の温度を造り、その中の水分が瓶(かめ)や蓋について水分は毎朝植物の上に落ち、そして日中には新鮮な雨のように始終洩れている。ガラスの内側に悪く汗をかいた時は蓋を取り去って、それがきれいになるまで開けて置く。ちょうど冬もうろうと曇って車内のガラスを開けた時間もなくそのガラスの曇りがきれいになると同様にガラスの蓋を開ける。うどんこ菌が最初に付いたならばガラスを約半日開けて置き、土はときどき触ってみて、そして乾いておったならば少しく潅水してやる。
植物は矮小なものかまたは生育の鈍いものを選ぶことが必要である。それでないと植物が間もなく生育してマラード大尉が1833年に表したように『箱の上部を押し上げる・・・』ようなことになる。この小さな庭園に素人は、どんな小さな植物がよいかを理解することを試みないものは困難である。もしも彼らが本当に成功しようとするならば十分の熟練が必要である。日光に直接当たったり暗い隅に置くことは同様に避くべきで、最も理想とするところは北窓である。サボテンや新鮮な葉を持ったものはガラス内の栽培には不適当である。すなわち、これらの植物は多くの湿気を与えてうどんこ菌をつくり、諸君の希望を破壊するためである。多くの町の人々はこれらのガラス内の庭園によって発育不良の木でも自然植物を発見することは不便であると思われる。多くの他の人々は最も熱帯の植物で色彩のよいものを選ぶ。すなわち多くの花屋で手に入れることができる。計画には多数の趣味が表れる。しかし『叢林庭園jungle gardens』が熱帯的影響を受けて最も流行している。次の植物はガラス内の栽培に試験されたものである。
用いられる植物の種類
叢林庭園(※ジャングルガーデン)用のものはほとんど緑色である。
セラギネラ、フィカス・レペンス、アジアンタム・カピルス-ベネリス、ココス・ウエドリアナ、ケンチア・フォルステリアナ、ムンド・ジャポニカム、セントポレア・イオナンサ、アスピジウム・ファルカタム、ネフィロレピス・エクザルタタ
明るい色彩のもの
トラジスカンチヤ、フィトニア、アカリファ・ウイルケシアナ、パンダナス・サンデリー、マランタ、ディフェンバキア、ペリストロフ・エオレア、プテリス・クレチカ、アルボ・リネアタ
結び
人々はあまり勝手な想像を入れるために異常な結果を生じる。植えるべき材料の選択のみならず、使用する中味の型においても想像を入れる必要がある。このページで見るように著者の息子は小さなガラス瓶に栽培するために・・・・として電気球を切って色のついたガラスの入れ物として役立てた。この珍しいばかりでなく種々の結果の特色は、誰でも手近にあるものを賢く使用することである。皿の庭園は過去数ヶ月国際的に賞玩された。実際それは面白いものである。しかしそれは容易にこのガラス庭園に変わってしまった。皿の庭園では水分の供給の調節が難しい。それはしばしば湿り過ぎたり、乾きすぎたりする結果である。 それは植物生育の上に悪い結果となる。
ガラス内栽培は他の庭園と同様に容易にできるものである。湿気もほとんど考える必要がなく、時々潅水するのみで足りる。内部で蒸発したり凝結したりして、絶えず繰り返されて供給されているから、ちょうど戸外の大自然の庭園で起こっていると同様小さく微妙に再出しているのに過ぎない。ガラス庭園は注意もあまり必要ではない。どんな方法でも誰にもできる。費用もかからず、誰にでもできる小さなものから始めて中味のどんな種類でも高価でない。ときには付近の森林中から集めてきたものからでもできる。
特に興味あることは、園芸を愛する友人にクリスマスの贈り物として試みるのも面白いことである。園芸の興味に新しい角度を開いたようなものである。
さて諸君、今年のガラス内栽培を使用してクリスマスの贈り物としては如何(いかん)。
(ジョージ・エッチ・ブリング氏述)1931・2・18
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以上がだいたいブリング氏のグラス・ガーデンについて述べたところであるが、これは我が国で古くから作られている箱庭といったようなものである。つまり我が国では古来から箱庭とか盆景のごときあるいは盆栽のごとき、自然をある限られた場所に縮写(しゅくしゃ)して鑑賞するというようなことが非常に発達して一般にもこの鑑賞が盛んであるが、欧米諸国では、かかる種類のものは最近までほとんど顧みられなかったし、また作られていなかったのであったが、最近にいたってかかる方面の趣味が勃興して来て、日本の盆栽などが英国辺(へん)で盛んに歓迎されているとのことである。ここに掲げたものなども欧米人のそういう趣味の動きの一表れであると見ることもできるが、ただ異なる点はそれが単に盆景的な趣味とはいうだけでなく、科学的に(潅水を長期間行わぬというがごとき)見ても、非常に・・・・(※最後の所、コピーが上手くとれず、不明、近日中に調べて仕上げます)
次の号の口絵 caption 小石川植物園でさっそく実行してみたグラス・ガーデン
上図は本誌1月号に小石川植物園の持田次郎氏が紹介されたグラスガーデンを同氏がさっそくやってみたものの写真で、斑入りパンダナス、フィットニア、イレシネ、プテリス、クラマゴケ等のいろいろの観葉植物を彩りよく植え込んだものでさらに潅水の必要なしに温室いらずでいろいろの珍しい植物が見られる。