【昭和10年の座談会】戦前、東京のカーネーション生産の約半分のシェアを誇った玉川温室村の経営実体と花の宣伝に関する意見
玉川温室村生産者座談会
『実際園芸』1936(昭和11)年1月号~3月号 (第20巻1号~3号)
【時 十一月十九日】※新年号なので、座談会の開催は1935(昭和10)年だと思われる
日本一の玉川温室村で
温室経営の内幕話を聴く
ここに掲げた写真は、座談会にお集りの方々で、温室村の犬塚卓一氏応接間である。前列右より森田喜平氏、伴田四郎氏、烏丸光大氏、石井勇義、後列左より、長門正寿氏、鈴木譲氏、犬塚卓一氏、石川昌治氏の方々である。
【出席者】
烏丸二項園主 伯爵 烏丸光大(からすまる・みつまさ)氏 ✕みつともは間違い
鈴木農園主 鈴木譲氏
日本フローリスト東京分園主 犬塚卓一(いぬづか・たくいち)氏
森田二項園主 森田喜平氏
長門農園 長門正寿氏(※寿は壽)
有終園主 石川昌治氏
高級園芸市場組合理事長 伴田四郎(ともだ・しろう)氏
本誌 石井勇義
※鈴木譲氏は東京農大講師、銀座のスズキフロリスト、鈴木昭社長の父親。
いよいよ温室園芸の季節には入りました。本誌では、現在日本で最も温室の沢山にある東京郊外の温室村で、主なる経営者の方々にお集りを願って、これまでの経営苦心談を伺ったのがこの座談会録です。それに高級園芸市場の伴田理事長にもおいでを願って、販売側からの御質問もお願いしました。
烏丸光大氏―今日のアメリカ式温室園芸家としては開拓者の一人で、最初は 大井町に長田(※おさだ、傅)氏と共に米国式の温室園芸を創設された事は有名であるが、その後温室村に二項園を移されてカーネーション、バラの外に卜マ卜などの栽培に当って居られる先覚者である。
犬塚卓一氏―米国オレゴン州で二十年近く温室栽培に従事されていた事は人の知る通り。殊にカーネーション、洋菊、シクラメン等には断然よいものを生産され、日本のカーネーションの品種や栽培技術を今日のレベルに引上げたのは全く同氏の功績に俟つもので現在五百坪の温室を自営されている。
長門正寿氏―昨年大日本カーネーション協会の品評会に一等賞を獲得された方で、優品を生産される許りでなく、経営に於ても極めて優秀な成績を挙げて居られる有数の栽培家であられる。同氏は朝鮮の水原高等農林学校を出られてから花卉の温室栽培に入られた方で、カーネーションの外に洋菊、その他いろいろ切花や鉢物をも試作されている。
鈴木譲氏―東京農業大学の出身であり、現に同校の講師でもあられる。温室村に経営を始められた古参の方の一人で、二三〇坪の温室をもって、カーネーション、洋菊、カラジューム、等いろいろの温室花卉を多年に渡って栽培して居られる方である。
森田喜平氏―温室村に於ける最大の温室面積を経営されてる方で、千二百坪に及んでいる。最初、東京府農事試験場の技術員から温室経営に入られた方で、現在は、バラ、カーネーション、シクラメン、トマト、葉物などの外に、いろいろと経験も深く、卓見を持って居らるる方である。
石川昌治氏―石川さんは海軍少佐で途中から園芸に入られた方で、現に三百坪の温室をやって居られる。海軍を棒にふって園芸界に入っただけに非常な熱と力を以てやって居られる新進家である。
伴田四郎氏―伴田先生は、本誌には創刊以来始終いろいろと御発表を願って居る方で、我国に最初に花卉の市場制度を確立した方であり、伴田農園を経営される一方、東京府園芸組合連合会の副会長であり、大日本園芸組合の副組合長でもある。他はここに述べるまでもない。 伴田農園はメロンの生産でも知られる
温室村の始り
石井
今月は皆さま御忙しいところをお集り願いまして有難う存じます、これからお願いしたいと思いますが、お話を伺う題目は「温室経営の打明け話」ということで伺いたいのでございます、そして一般の読者に解り易いように、碎けて興味のあるように、何でも実際をありのままにお聞かせを願いたいのです。
最初に、温室村が出来ましたことから、極く平たく全体にわたってお話し願いたいと思います、どうでしょう、犬塚さんから、ここでお始めになってから今日までのところをお伺いしましょうか。
犬塚
私より古い方が沢山居られますから、烏丸さん、森田さんあたりから如何です。
伴田
一番初めにここへ温室を建てられたのは荒木(※石次郎)さんですね、あれは何年ですか。
森田
大正十三年の夏でしょう。園芸組合の名簿にありましょうが、震災の前々年ですよ(※さまざまな記録に大正13年と書かれているが、ここでいう大正12年の震災の前々年ならば大正10年である)。満願寺の地所がそこにありまして、石川さんが行き、それから早川君などがやり出したのがその時ですね。
伴田
それから荒木君があなたの所に相談して、種々話あったのでしょうが、結局ここヘ来るということは烏丸さんですか、森田さんですか。
森田
二人して―温かいところでやるか、東京の近郊でやるかというので、話が出て、温かい所があったのですが、やはり東京市の近所という関係で、こっちがよいだろうということになったのです。
伴田
するとお建てになったのは森田君は十三年ですね、その次は。
犬塚
藤井さん、鈴木さん、それから私などでしょう。
石井
すると今年は十年になりますね。
伴田
一番早い人ですと、十二年になりますね。
石井
いま全部で経営者が何人いらっしゃいますか。
犬塚
二十八軒ですかね。
伴田
坪数はどの位でしょう。
烏丸
もうー万坪でしょうね。
石井
一年に千坪位ずつ増加したわけですね。
森田
始めは少くって、二三年目から五割位増えました。
犬塚
昭和五、六年が一番増加しましたね。
鈴木
八千坪位増えた年がありますよ。
経営者はどんな経歴の人が多いか
伴田
いまやってらつしやる方はどういうような経歴の方が一番多うございますか。
鈴木
千差万別でしょうな。
烏丸
やはり他の温室に見習に入って栽培を覚えて始めた人が多いようですね。
鈴木
若い方はそうですが、そうでない森田さんだの、石川(※昌治)さんだの、犬塚さんだの他で相当にやって居られた方がここに来て始められた方が多いようですね。
犬塚
そういう方が三分の一位しかないでしょう。
伴田
純然たる素人の方、見習をして始めた人、どこかで経験があって来た人というように区別が出来ますね。
石井
学校関係ではどうですか。
伴田
農業関係の学校を出られた方が八名かありますが、軍人さんから入った人が二人かありますね、それに会社の重役をしていた方などがありましょう。
石井
そういうように色々ありましょうが、専門的に園芸の予備知識を持ってお始めになった方と、最初から実際に見習いの方からおやりになった方と、経営の方で、どういう相違が現われて居りましょうか、要するにその人の問題ということになりますか。
森田
割合に学校をやった人が悪いのじゃありませんか(笑声)。
烏丸
人間の問題だろう。
犬塚
しかし基礎教育をされて居るから間違いはないようになって居るんでしょうがね。
森田
いや、それがハッキリ分かることは理窟で、学理で仕事をしようとする、いま私共は煙突を立ててやってると、煙突を立てるということはこう立てる、あれで吸い込むだろかということを、学校へ行った人ですが言った。普通の人はそう考えるが、煙突は吸い込むものだという他に専門のことに行かなければならぬが、学問をした人は実際にやる上に勇往邁進するという力が足りない、幸にして温室村は少しくブルジョア的の人が――ザックバランにいってしまえば、本当の職業として成立ったので、土着の人が一人いましたが、その人なんどは実地に馴れましたけれども、多くは資本的に恐れをなして引っ込むのですけれども、やはり仕事というものは、どうもその方が強味があるらしい、或る程度は親から与えられた資本で行きますけれども、それ以上はやはりその事で種をふやしたようにやって行った人でなければいけませんね、またそれが温室村の気持ちだと思いますね。
石井
それから経営者が御自身先き立ちで、お働きになって居られる方と、中には資本家の立場に立って経営して居られる方と二種あると思いますが、それ等の成績はどういうものでしょうか、影響があると思いますが、やはり技術のある園丁を得さえすればそれで経営がうまく行きますか。
伴田
資本家の立場であって、園丁に任かして居るというのはあまりないでしょう。
石井
任かすにしても園芸というものが分って居らなければ温室の経営というものはうまく行かないということになりましょうね。
森田
それは無論あります、どうしても自分の勤労でやったことでなければ、他の工業や何かのようにプランを立てて示せば、職工が働いて行くという能率行程がきまったものではありませんから、やはりそこまで経営者が進んでやって来なければ、過去十年間の成績は挙がって来なかったのです。けれども今日行き詰まった状態を見るというと、更に自らやるという気持ちが大事だと思いますね。
石井
それでは森田さん、こちらで始められた当時と今日までの種々の話、切花の値段だとか、生産高とか、生産費とか、そういった問題をお伺いします。
今日までの経路と現状
森田
そうですね、始めた気持ちからいえば温室花を始めた数年の間は非常に緊張していたと思います。それは値段がよかったということと、働く園丁或は園主に至るまで可なりこれなら直ぐ独立出来るという希望を持って居ったんですね。それが今日では資本的に大きくやるということになり、或はまたそう作ってもそうは売れないという気持ちで、つまり相場の下落で、経済上の打算から少しく無産者には暗影を生じて居ると思います。それで更に第二期に入いったと思います。約(つづ)めていえばそうですけども、作って始めた当常時は幾分か品質が悪くっても相当売れるし、価格に於ても今の二倍三倍に行って居りましたから、温室を立てて以来何年目に償却出来るとか、拡張出来るという希望を持って居ったようですね。
伴田
一般にそういう傾向が見えますね、見習生が払底だということがそれだと思う。温室が儲かるということであれば猫も杓子も来ると思いますが、今では温室は儲からぬということが一般に知れた状態にあるようですね。
鈴木
さうですね。全く始めて五年位は随分緊張して居りましたね。
烏丸
それには主人も一生懸命にやって居りましたが、今では怠けて居りますから。
森田
爛熟期になったといいますか。
鈴木
惓た怠期なんだな。
伴田
今はもう古い者が居るから任かせておいてもよいというように見えます。
森田
よく府県に老農家というものがありますが、あれも三年立てばただの人、温室も十年立てば下り坂になるかどうか知れませんが、まァこのまま行けば、一口にいっていまの三年立てばただの人になる老農家の類だと思います。
伴田
いまここでよい仕事をやれば、きっとうまく行くと思います。
烏丸
花卉はうまく行きますけれども、それが利益があるかどうか。
伴田
古い人よりうまく行くと思いますが、それが二年三年続くかということですね。
犬塚
いまの不景気な時期に始めるのがよいの じゃありませんか、好況時代にやった人は不景気時代にはうまくいかぬということですからね。
伴田
そのような気がするのですね。
烏丸
それはスヰートビーとかカーネーションだとか、まだまだ種々あるから、そういうものを知って居れば行詰まらない。
石川
カーネーションもまだ行詰まって居らないと思います。よその家を見て、今年はあそこの家は何だか一向立って居らないということを見る、それは長い経験を有った人でも高低がありますから、作り方でもまだまだありますね。
犬塚
小規模の経済的でやるには主人が陣頭に立ってやらなければ――。
烏丸
――全然ダメですね。
森田
まァ農業というものの仕事の性質がそれだ。
烏丸
カーネーションを植える数が多いんだね。
犬塚
創業当時はみな緊張して居りましたから必ず結果がよい。それが二年、三年になりますと落ちます。そう油が乗らない、その結果が作物に現われて来るんですね。
カーネーションが全盛、露地との対抗
伴田
いまはカーネーションが一番多いんですか。
鈴木
七割でしょうね、後はバラが二割近くありますか。
伴田
そうすると残り一割が後(あと)の物となるのですね。
鈴木
そうなりますね、東京府下としてもカーネーションが一番多いんでしょう、いま二万いくらかありますか。
伴田
二万五千位あるといいますね、けれども足立などへいらっしゃれば、カーネーションは一本もありません。
鈴木
それでも三年ばかり前に調べましたけれども、一万二三千位カーネーションだけで、東京附近でですから、やはり半分を越して居ったと思いますね。
伴田
カーネーションも大分露地のカーネーションに興味を持って居られるようですが皆さまはどうです。
石川
大したことはないと思います。この近辺でやればですけどもここでは一回しか切れない。
長門
露地のカーネーションと温室のカーネーションとは自然分れて来るんじゃありませんか、そういうような点で違って来るのじゃないかと思います。
伴田
この間淡路へ行って見たらば、露地の方が高く売れて居ります。これは温室屋の脅威ですけれど、長いことはないと思います。冬になれば花がとまってしまいます。ただ今まで夏切り、秋切りの人がどうかというように私たち考えますが、カーネーションを作るのにはこれから露地切りの時期でない時にうまく切るような方法を考えなければ
―そういう事で、温室カーネーションというものも少し考えなければなりませんね、今までみたように七月からずっと続けて切ることは無理じゃありませんか。
烏丸
時期を縮められると、一時に出ますからね。
犬塚
露地のカーネーションは天候に左右されますから、ここ二三年は恵まれて居ったんですけども、いつもそう恵まれないと思いますから、そう心配はありませんが、ただ夏切りというやつは大に考えなければなりません。
伴田
この九月十月はスペクトラムが安かったんですが、あれは伊豆に支配された、だからもう一度伊豆の品種が出て来たならば、赤が出て来れば赤が圧倒される、白が出て来れば白が圧倒されます。伊豆のカーネーションは去年入いった初期ですから、来年もこの種のものが出て来るかどうか、伊豆によって東京は支配される、淡路によって関西が支配される、房州ではカーネーションは出来がよくないものですから、余りこれは相手にはならぬと思いますが、伊豆はもう一遍行ってみたいと思って居りますがね、去年行った結果は大したものではなかったんですけども。
犬塚
まァ露地では露地に向く、露地性のカーネーションですから、温室で作るように露地と違った色彩とか、品種の違うものを作れば或る程度まで対抗出来ます。
伴田
そうですね、エンチャントレスは東京の近所の露地では出来ない。ところが淡路島へ行って見ればエンチャントレスが一番よく出来て居りました。富岡(※神奈川県)が露地のカーネーションを切出したのは湘南電車の土を置いたところで出来た。ところが二年目にはダメ。淡路へ行ってみたら階段式です、今年作った田圃には作らない。年々田圃を代えて、だから露地カーネーションももう一度地所を変えて、新らしい種類とか、何とか研究してみなければいけませんが、温室屋さんもよほど御心配のこと思いますけれども、ただ冬は切れませんからね。
鈴木
やはり同じようなことはトマトで小笠原物が大分よい物が出て来て、温室種が押されて居ります。
石井
カーネーションのお話が出ましたのでもう一度戻って伺いますが、品種からいえば、どの品種が一番多く作られています。
犬塚
スペクトラムでしょうね。
長門
ピンクスペクトラム――。
犬塚
そうですね、赤から得た変種のものですね。
長門
白ではハーベスター。
石井
長門さんにお願いいたしますが、品種のことについて何か。
長門
アイボリーといったところでしょうね。ピンクのものでモーニングが相当作られて居りましょう。
烏丸
モーニングは温室じゃありますまい。
長門
温室ものでワードが無くなってアバンダンス、それにエルドラ ーー。
石井
品種によって収益がそれぞれ違いますか。
長門
多少ありますが、よく作れば、結局収益では同じじゃないかと思います。去年のあれを見ましても、仮にラデーとスペクトラムを比べまして、結局収入に於ては同じところへ行くんですね。
伴田
坪割りにしてね。
長門
そうです。
どの位の収入が現在ありますか
石井
昨年あたりの収益、それに対する生産費というようなことは。
長門
普通作ですと十五回位じゃありませんか。
烏丸
普通ではそう上らない者があるだろう。
鈴木
長門の普通が十五円でしょう。
烏丸
平均十五回というのはなかなか上らないね。
長門
一番余計あがってるものは去年はノーススターです。これは市場にもよります。或る市場に於て或る品種をよく買う、つまり客ですね、その品種へ飛つく客と、或る市場には飛びつかないものとあります。私は日本橋へ出して居る関係上ノーススターが一番よく売れるので、去年の売りあげは坪当り十九円いくらかになってます。
伴田
通路を入れた坪ですか。棚坪ですか。
長門
通路を入れた坪、温室の建坪です。
石井
それに対して燃料、肥料代というようなものはどうなります。
長門
それで宅で使って居る実際経費、資本償却とかそういうものをのけた直接その年に使って行く諸費は坪に対して九円チョットにつくのですね、それから投下資本の償却、金利、そういうものを全部入れますと十三円チョット、資本償却は十年償却ですから、そういう調子で全部成績があがって行けば、まァ損じゃないんですね。
烏丸
それならまだ良いね。
伴田
犬塚さんところはどの位に行って居ります。
犬塚
どうも統計を取ったことはありませんが平均十五円出来れば上々なものでしょう。
長門
それですから、仮りに或る品種がそれだけに行くものとすれば、その品種だけを行けばそれはよいのです、去年はノーススターがそういう調子に行って、一昨年はラデーがよかった。その前はスペクトラムが非常によかった。スベクが一番よい当時は二十一円位になって居ります。去年、一昨年、一昨々年ですから、値段も非常によかったんですが、しかしそういうのをずっと推して見ると、全部をよく作れば平均二十円になるという訳ですがね。
烏丸
それはなりますね、併しその見通しがね。
伴田
そう、今年どの種類が最高を取るかということが分りませんね。
長門
それが分からないのです、アバンダンスを作って半分位になってどうかと思っていますが。
犬塚
値(ね)の高いということと、一番収穫のあがるものがよいということであって、平均一株いくらということはいいにくい、品種に於て一株いくらということはいえますが。
伴田
ラデーを犬塚さん、おやりになって引合いませんでしたか。
犬塚
合いませんでした、贅沢に植え過ぎたんですね、間隔を広く、質をよくしようとしたから、最近のように質より量ということがあれば、もう少し収穫があったかと思いますが。
石井
一般に以前より密植になって居りましょうね。
犬塚
だいたいがそうらしいんですね。
石井
坪当りの株数はどんなものです。
犬塚
建坪からいえば六十五本から七十本位でしょう、余計なところでは八十本位になりゃしませんか。
長門
五寸、六寸に植えて六七十本位でしょうね。
石井
それで切れる本数は乎均して、どの位になりますか。
長門
切れる株の本数に対しては変りませんが、しかし出来る花の輪が小さくなるということは確か、最近日本橋市場へ行ったら、ラデーらしいラデーを作ってくれんかと、いわれるんですね。この頃は安い安いといって、みんな文句をいいますけれども、どうも昔の花より悪いというのです、こりゃ確かに悪くなったと感じますね。
鈴木
それはそう感じられますね。
犬塚
百坪で、長門さんではどの位切れます。品種をとっくるめて。
長門
何本になりましたか―。
犬塚
七八万本も切れたら可なり切れる方じゃありませんか、十万は。
烏丸
十万は切れないだろう。
犬塚
十万は理想だが、併しまあせいぜい七万切れた人は可なり切れた人じゃないんですか。
長門
去年は切れなかったんだが、一昨年は可なり切れました。三百八十坪で二十七万いくらと思いますが、ハッキリした数字を覚えて居りません。統計を取ったものはありますが、いま覚えて居りません。
温室の経営はどの位が手頃か
石井
それではカーネーションはその位にして、温室を営利的にやって行く場合に、どの位の面積が経営するのに手頃でしょうか。そういうような標準はありませんか。だいたい珠盤(そろばん)が取れる面積というようなもの。
犬塚
石川さん、あなたは中辺(ちゅうへん)からお入りになったのですが、どうですか。
石川
四五百坪というところじゃありませんか。私はいま丁度三百坪ですが、まァもう少し欲しいような気がしますね、それで余所のものを見た眼で、五百坪以上というと大分骨が折れる、四百坪から五百坪位、マスターが一人で管理してやって行けるのがよいところじゃありませんか。
石井
園丁はどうなります。
石川
百坪に一人、尤も園丁によって違いましょうが、本当に分った園丁が居ったら、三百坪で二人居れば、後は自分も働くということで十分ですね。それであとは努力次第でありましょう。
石井
三四百坪といいますと、最初の投資はどの位になります。
犬塚
初めから三四百坪建てるということは一寸考えなければいけません。結局新らしい温室ほどよく出来るものですから、年々建てて行くということがよくありませんかな。
石川
まあそうですね、いくらお金があっても初めから三百坪というと、気が緩んで来ます。毎年百坪位ずつやって行くということがよいように思われます。
犬塚
それにこの温室建築というものは非常に面白いものでしてね。
長門
しかし温室の投資値段はハッキリいえませんね、段々単価が違って来ますし、相場もありますけども、やってると相場以外にこっちが利巧になるのですね。
温室の建築費はどうか
伴田
いま平均して、こういう温室は坪幾ら位で出来て居ります?ヒーターまで入れて。
犬塚
AとBとあります。
長門
平均温室村に投資されて居る現在の金額というものがどの位でしょうか。
犬塚
まあァ平均して建築費は、近い例は最近エチオピヤ問題(※第二次エチオピア戦争)で物価があがって居りますが、この問題が起る前に建ったもので、百八十坪でしたが、これは前にコンクリートもない、鉄骨の柱も可なり節約した柱で、上から下ま通っていない、何でもベンチをまぜて十九円から二十円ですね、二十円前後、一分硝子で、その代り相当手がぬいてあります。最近この一週間ばかり前に契約したものがあります。坪数は約八十坪です。材料は米材か使って母屋(もや)とか敷居、土台、棟木というものはまァ普通並材を使って、一分硝子を入れて、二十六円五十銭かかりました。
伴田
ヒーター(暖房)を入れてですか。
犬塚
ヒーターは別です。ヒーターを入れると、これはボイラーという問題がありますから、これによって坪数に対する負担が違います。
烏丸
まァ今でも三十円、三十五円はかかりましょうね。
犬塚
井戸からタンク、煙突――ボイラー。
烏丸
元は五十圓もかかりました。
森田
三百坪で一万円以上はみな使って居りますね、だから坪当り幾らといって、それを雑誌の上で見て安く出来ると思ったら違って来ますから、これは注意しなければならぬ。
犬塚
どうです、温室の建築費と暖房の配管とか。ボイラーとか井戸とかの設備が半分、尤も坪数にもよりますが、どの位の比例になって居りましょう。五十坪や六十坪だったらば半分より設備費が余計かかって居りましょうが、百坪でも半々じゃありませんか。
長門
それに建築費より設備費が余計にかかりますよ。
犬塚
すると理想の経済坪数は四五百坪どまりとして、設備費は何割かかかりましょう。やはり温室建築に対して三割強――尤も煙突でも耐震の立派なものをかければ、それは大変ですけれども。
長門
ボイラーなど入れて四割位はかかりましょう、新らしくやると大変、煙突一つでも。
烏丸
お湯でもいいでしょう。
犬塚
しかしパイプがかかりますからな。
伴田
温室を建てるのは安く建てたというのを自慢にして、事実三十円かかっても二十五円、五十円かかっても二十五円というのが通例じゃありませんか。だから安く建てたといって、高くかけるのは馬鹿だというらしいんですよ。
犬塚
或る程度までかけなければウソだと思いますが、そういう風もあるらしい。
長門
大工の見積りでは十九円、二十円といいますが、それは建物だけで、十九円の温室を建てたといわれるものなら、実際は二十二三円から四五円はかかって居ります。宅の前の温室、あれが五十八円位かかって居ります。
温室の維持費
石井
それから維持費というものですが、十年位は修繕は要りませんか。
森田
そう、それは思ったより保ちます。十年償却といいますが、十五年位は――手入れすれば二十年は保ちましょう。
鈴木
手入れ次第ですね。
伴田
それにはペンキの塗替えとか何とか。
森田
それは無論やるんです。
鈴木
そうして七八年立ったら硝子を洗って、腐った垂木を入れ替える、それが理想。私は家のもやったし、農大の農場もやりました。
森田
よく●(※漢字1文字判読不能、ふりがな「とう」)などやって居ったんだが、それは手入の仕方ですね、この頃はヴァイタ硝子が用いられますが、あれをよく見ますと三ケ月目には普通硝子になる。普通硝子は一年か二年で洗う。鈴木さんのいわれるようにやっても収支償う。だからペンキを毎年塗るということはムダみたやうですけども、ペンキを塗るとなると、自然硝子を洗いますから毎年新たらしくしたと一緒。保存する上に於てもよいし、中の作物も収穫が減らないということで、昔の煤けた温室を使った時代とはよほど違って来て居ります。
鈴木
保つだけ保たせるのとは違います。それで坪当りいくらもかかりませんね。
長門君ところでやりましたね。あれは石油をまぜてパテを使ったものでなければ取外す時に硝子の割れる数が多いと思います。みな今までの例はパテに欠陥があるから硝子が割れるようです。
伴田
硝子さえ洗えばいいんでしょうか。私のところの硝子は古いのは十何年か使って居りますが、表になった部分と、裏になった部分が違います。硝子がしゃくれていて、拭いた時に、裹と表は障って見ればよく分りますね。それ程サラサラする、尤も、雹(ひょう)が降ったので硝子は新らしくなりましたが。
烏丸
本当なら取替えるのが理想でしょうが、そうもいかんから。
石井
坪当りどの位かかります。
鈴木
いくらもかかりませんよ。
長門
外して洗って、塗って、張って、宅では一円二十銭でした。
伴田
釘をぬいて、パテが剥がれますか。
長門
剥がすのに悪いのが出て来ます。だから硝子は補給します。
伴田
何割位になります。
長門
パテのつき具合によって違いますから、宅あたりでは割れたらやるんですから。
鈴木
よほどよいパテでやったんでなければ。
森田
張替える時に、古いものはとても欠けるんです。一分板と普通板(なみいた)とは大分違います。
伴田
一分板は紫外線を遮っていかんといいますが、私どもも一分板を拭いた時は一枚も割れません。普通板ですと一割は割れます。
烏丸
そうして隙がないから温度が保つ。
森田
風の時、普通板ですと、しないますから。
鈴木
実際いったら一分板を使った方がよい。
伴田
僕等一分板が安全で、紫外線はいくらも違わぬと思うが。
烏丸
それほど違やしますまい。
森田 アメリカでも二十四オンスの硝子に限るものだという。だからウインド硝子というものは一分以上のものでしょう。
石井
紫外線というのは温室内の植物に対して、どれだけの影響があるかということがハッキリ解って居らないではないでしょうか、京都の加賀(※正太郎)さんのところで蘭の繁殖室をヴァイタ硝子でやって居りますが、結局は大した影響はないらしいんです。それですから、一分だから紫外線を通さなくなって成長が悪いというほど重大な影響がないらしいんですね。厚さより寧ろグラスの質の問題になりますね。
森田
それはいつか英吉利での試験の結果が出て居りましたね。
伴田
旭硝子としても一分を使って貰いたいと宣伝して居るらしい。将来は普通板をやめるらしい、特に温室には一分を使ってくれといます。
=以下次号=
(2) 2月号
温室村で作っている花
石井
カーネーション以外にはどういうものを多く作って居られますか。
犬塚
バラがありますね。
森田
私永い間やって居ますがバラはどう作っても引合わんね。
伴田
東京附近ではバラの温室が減って来ましたが、静岡はどんどん殖えて来ましたね、それからアメリカでもバラは引合わないといって、カーネーションへ戻って居るといって居りますが、事実、引合いませんかね、バラは?
森田
カーネーションからバラになったのは十五年前ですから。
伴田
日本ではバラが飽きられるのは少し早過ぎやしませんか。
森田
日本という国は湿度が多くって、直ぐしぼむ花ですから、バラという時期は十二月から翌年三、四月までです。そのうちでも四月はもう悪くなります。まず三月までです。然るにカーネーションは、一年中いつでもよく保つということと、今一つは、東京でもバラを売る店は一流の花店で、二三流の店では売れません。バラを好く人は贅沢な人ですから、バラは花屋が買って行って一般向にならないのです。もう一つは、デコレーションや何かの関係でも、アメリカなどのように、瞬間的でなく永い時間保たなければならぬのです。消耗品的でなく、蕾から咲かして行かなければいかぬというようなことですから、挿しておいても長く保つような花の方が歓迎されて居ります。
犬塚
しかし日本のバラは“なき(萎れること)”ますが、アメリカのバラは“なきバラ”を見たことはありませんが。
烏丸
切花をおく部屋にも関係しやしませんか。障子だから直ぐ関係するのではないか。
犬塚
どうも栽培に関係がありやしませんか、アメリカでは切って貰って、それを水揚をせずに束に入れて三十分もかかって、家へ持って帰って、挿して見て決して“なかない”。チャンとして居ります。冬でも恐らく寒さに当って、こうなるのは温かいところに居って、水を揚げないというのは栽培に無理があるとか何とかじゃありませんか。
伴田
それはよく長田(※傅)君が自慢にして、俺のところは決してそのように“なかぬ”という。何かそこにコツがある。それは寒くして居る。事実持ちがよい。温めない、温めないということがよいのじゃないかと思います。静岡バラなどが揃って大きいのがありますが、品評会の時、審査をして一方を一等賞、一方を二等賞として一等の方が早く萎れてしまったり変なものですが、これは温度のとり方によって違うのじゃありませんか。
森田
カーネーションも四十度と五十度とでは、花の保ちが違いますから、品評会で審査する時、低い温度で作ったものは経済上のことは考えない。だから営利的に合うやつを品評会に出すとノックアウトされるんですから――。
伴田
あそこのバラが保つとなれば花屋は買います。保たないといえば買わない。そうかといって保つようにして居ったんでは引合わないと思いますが、そこが呼吸でしょう。
犬塚
保つように作れば生産が減る、すると行渡らないからから市価が保たれる。どこの店にもバラが置けないということは結局“なく”からで、バラはトゲがあるからどうとかいふのではなく、即ち早く萎れるという事が主なる原因のようですね。
石井
伴田さん、地方ではバラの切花生産は増えて居りますか。
伴田
静岡県は年々増えて居ります。去年より今年は増えて居ります。一昨年と今年とでは三倍位、カーネーションは清水港近所ではやって居りますが、それに温度が温かいのでパイプなんかもぐるっと外へ廻わして居るだけ、三インチですが、それでバラが出来るんですからバラはやはり静岡に取られるのかと思います。東京附近でもモット増えてよさそうに思えますが、夏のあつい時の相場を考えるとみじめですね。
森田
私の経験では、現在の相場ではバラは殆ど経済的に引合いませんね。
石川
森田さんところで二百坪位カーネーションが増えるということはバラが引合わないからですね。
森田
バラというものは非常に品種が沢山あります。それを或程度花色や花型の変ったものを纒めなければならない。理想的に考えるとバラを作るのには一千坪なければ花色などが揃わぬのです。今日も河野さんが来て、荒木さんところに行って纒らないから相場がきまらない。小規模の人はバラをやるとまとまりません。そこにバラを作ることがトラブルがあります。米国であれだけ経済的にゆくというのに、日本ではこれなんです。
犬塚
しかし営利本位に作るのなら、深山の品種のうちで客の喜びそうなものだけを作って行ったら算盤が取れるんじゃありませんか。
森田
客の眼が進んで来ればね。
犬塚
私の考えでは、儲からないというのは種々作るからで、むしろ良い物だけを作ればバラだって算盤が取れるでしょうがね。
森田
バラの栽培者が多ければ、皆で変ったものを作ればそれでよいわけですが、実際に於ては例えば、カーネーションでもラデーがよいといってもラデーとスペクトラムだけ作って居られない、我々としては色々なものを揃えたいのですね。お客にも満足を与えたい、そこに悩みがあるんですね。
犬塚
それで算盤が取れないんだ。カーネーションも新品種のようなものを集めて居る、スペクトラムにラデー、どうも実に立派なカーネーションだ、あの人のカーネーションは引っ張り凧だといいうが。
石川
或る家でこれこれの品種が得意だという。しかしそればかりやっているのでは物足りない。犬塚さんで新らしいものが出来た、一年で一種になってしまう。折角手に入れたから、やめてしまうのは惜しいという。そういう気持ちを持って居りますね。
伴田
一番いいのは私はバタフライならバタフライが専門である、それだけを平気で作って居られるやうになればいいんだが。
森田
それは家(うち)でペルネーはよく出来ないんですが、やはり黄色のものを棄てることが出来ないんで、一温室(へや)か二温室(へや)は作って居るという結果になるのです。
ゼラニウムの切花栽培
長門
石川さんはゼラニウ厶の切花をやって居られますが、あれはベンチへ植込んでうまく行きますか。
石川
ベンチではいけません。
伴田
ベンチへ入れたんでは売物になりませんね、鉢で以て一番理想的にやるのは一本立ちにする。二寸か三寸五分鉢にして切ったら肥料でも入れて、カーネーションみたように、その次の蕾を持すことは出来ません。それには三ヶ月かかりますから、早く挿したものなら三寸で三本、五寸で五本切ってしまえば、後は棄ててしまいます。
森田
それでいくら位売上げがありますか。
伴田
元は一本十五錢か十二錢に売れましたが今では十銭に売れればいいんでしょう。今のところ、ここいらの相場ですと五、六銭から悪いものは二三銭でしょうね。しかし地方で競争は出来ませんからその点は安全です。地方の切花栽培が盛んになって来たら、ゼラニウムのような輸送の利がないものを、東京附近でやるのがよいと思います。
森田
品種はどんなものがいいんです。
伴田
ゼネラルウヰンというものが殖えて居ります。昔からあるアルホーンス、ミッケーというものがありますが、その方が割合に人気があるものですから、この頃はゼネラルを減らしてアルホーンを殖やして半々にして居りますが。
石井
坪当りどの位は入りますか。
伴田
五寸鉢で、一坪五十位入いりますが、棚坪にしますから、棚坪で六十鉢位。
石井
そうすると三本ずつにして百八十本切りますね。
烏丸
一本十銭として坪当り十八円になりますね。
伴田
十銭平均には行きませんが、引合わぬものではありませんね。私の温室にはベンチの外に棚が出来て居りますから、それに載っかって居りますが。
森田
ゼラニウムの切花はテーブル装飾には使えませんが、生花(いけばな)にはいいようですね。
石川
私もはじめ四、五月頃切花を出したんですが、温室で四五月ゼラニウムを剪るというのは少ないらしい。それでは商売にならないのです。
伴田
若い見習生(みならいせい)などの鉢植の修業にはああいう簡単なものから修業して行く。それで毎年新らしいもので受持に持たせる。挿木からやらせるんですが、その意味では適当な材料だと思います。
烏丸
色々花色の異ったものを作ったらどうですか。
伴田
色を作ると揃いませんから、二種類ならいいんですが、混合というものは値が悪い。やはり色の揃った方がよい。
シクラメン作りの秘訣
石井
犬塚さんはシクラメンを大そう上手に作って居られますが何か祕抉がありますか、種子を播いてから何ヶ月目で売出して居りますか。
石川
あれでは儲けてますね。
犬塚
種子は昨年は遅かったが九月に播きました。すると翌年の夏八月頃花が咲きます。その花をみんな取って棄てて、その後は出来るだけ灌水を少くします。そうしてセルパとか、ああいうものは少ないやうにして、秋になってから寒さに当てる。サイドの戸を開けて冷たい風を入れて寒さに当ててます。それから温度をかけるんです。それだけなんです。それで土は私のところで腐葉土ばかりでは作らない。荒木田を或る程度入れるんです。これがよいか悪いか、そういうようにしてやって来ましたが、割合にしまって出来ました。ただ夏少し水をやり過ぎると、大分長いものが出来ます。夏、灌水をやかましくしないと、シクラメンはこれ一つで良くも悪くも出来ると思いますね。
伴田
どうして花が早く吹きますか。
犬塚
灌水の加減でしょう。私のところは潅水がやかましいんです。不足気味にやるんですね。その為めに夏に花が出るのでしょう。
伴田
不足気味でどうしてグイグイ大きくなります。
犬塚
大きくなるためにやる。灌水は乾き気味でいいんですね。
伴田
乾燥させるから花が早いということは分りますが、夏の灌水が秘訣ですか。
犬塚
そうらしいですね、彼地(米国)でシクラメンばかり四五十年やってる人の話を聞いて見たんですが、夏の間の潅水だけ気をつけて、秋ぐちになって水をどんどんやればシクラメンほどやさしいものはないというのです。
伴田
灌水を控えれば夏にペロリと腐ることはないでしょうかね。
犬塚
一鉢毎に一々水を輪状にしてやります。ホースでやりますが、この位の水の出ならよいという加減を見て、ホースで、葉をわけてやる。静かに水をかけるから、総体にはいりかけた量は少ないようですけれども、相当沈んで行きますが、あれを強くバアッとやりますといけません。家では水では私が始絡叱言をいって居りますが、球にはかけてはいけません、ところがどうしてもかけることになりますが、よほど違うようですね。大量でやるところは忙がしい。毛唐などは(※ママ)一万作っても二万作ってもそれをやって居りますから。
伴田
出来のよいものがペロペロと行きますから、あの位いやなものがありませんが。
犬塚
それから枯葉を残さないようにしなければいけません、根元から注意しなければいけませんね。
石川
根元から取るのがいいのですか。
犬塚
完全に固くなって行けばいいんですけども、ブヨブヨの時は固くなる可能性はありません。早く除(と)ってしまった方がよい。そして灰なり石灰でも、面倒でもその都度打込(うちこ)んで行くんですね。そういうのを私のところは今年は総体に対して百位出来たのがあります。
石川
球根は腐らなかったんですか。
犬塚
それだけお上手なんですね。が、手が足りないとチョコチョコとやる。どうしてもサッと引っかかる。するとスッカリ失敗して居ります。まァ今年もよく出来て居ります。昨年も腐らない。それは条件がよいので、夏から秋へかけて涼しい風が入ります。
石川
夏は風が入る。光線が弱くって涼しいところ、それから寒くなってから真ん中の方へ移す。それで具合よく行きますね。
スヰートピーと金魚草
伴田
スヰートピーはどうして温室村ではやめてしまったんですか。引合わんですか。
犬塚
引合わぬらしいんですね。
伴田
長門さんも鈴木さんも以前はやられましたが、どうしてやめられたのです。
鈴木
私はあんな面倒なものはやれません。とても手数がかって引合わぬのです。
森田
小物が多う過ぎるせいか、小物の値段がなくなった。高く買えばいいんですが。もう一つは、スヰートピーは初年の人のもので、メロン屋さんがやって、その後へやる、夏やる固定作物とスヰートピーとは違います。初年作(しょねんさく)だから初歩の人がやるものになってます。
伴田
初歩作はひどい。ベンチではない、ベットですから非常に面倒がありますから。
犬塚
カーネーシーンが以前より安くなったから、或る程度ピーの代用をするということもあるんでしょう。
石井
市場へ出る量は減ったんでしょうか。
伴田
減りました。カーネーションが一銭二銭で買えればカーネーションの方がよいというわけでしょう。これから金魚草も作られませんが、引合いませんかね。
鈴木
昨年少し作ったんですが、とても相場がよかったんです。
森田
アメリカの雑誌を見ますと、相当作って居りますね。が、普通の駄花(だばな)のような感じがぬけないんですね。
伴田
小さく小じんまり作ればよいのでしょうが、温室へ作ったものは大物ばかり出来るから用途が少ないのじゃありませんか。
鈴木
時々ああいうものを見てやればいいんですがね。
伴田
いいんでしょうがね。日本向きのものを作ったらいいんでしょう。
烏丸
まァ仏さんの花みたようになるから。
犬塚
あの位水揚げしないものはない、直ぐ泣く。あちらでも大量に作って居りますが、何に使っても水を揚げないから。
チューリップの促成
伴田
チューリップの促成はどうです。
犬塚
大分今年は温室村でやる人が多いのでしょう。
伴田
カーネーション、バラをやってる人は促成は出来ませんがね。
犬塚
シクラメンを作ってる人はその後、菊の後へ入れてやるという程度でしょう。
森田
温室に二つの観念があります。作るものを取り換え取り換えやるものと、この温室村のように固定花をやる人と気持ちが違います。ただああいった冬物だけをやる作り屋さんもあります。
長門
カーネーションの苗を作ると、どうしてもぬかなければいけません。ぬくのがもったいないなら最初から植えぬがよい。じゃ植えぬ方がよいかというと空けておく訳ではいかぬから、菊をやって、菊が取れた後にフリージヤ、フリージヤの後にチューリップを入れて、チューリップが四月の初め頃出す。そいつを取るとカーネーションの苗を並べる。だから促成というより場所塞げに堪へておくというのです。
伴田
チューリップは去年、一昨年の相場で球を買ってお引合になりますか。
長門
精密に計算をしたらどうでしょうか、勿論球代にならぬということは今までにはなかったですが、球根代よりは出るんでしょう。
犬塚
平均したら高い球根を買ったら現在の仕切では合わぬ、だから一銭か一銭五厘どまりの球根を見てやれば、或る程度算盤が取れやしないか、四銭も五銭もの球を買ったら金額を考えなければなりません。
長門
その意味でやって居りますから、宅あたりでも二銭どまり。二銭より高い球根は買われないのです。
メロンの栽培はどうか
石井
森田さんところでは他の蔬菜をお作りになって居りましょう。そういうお話を少しお願いいたします。
森田
トマトとメロンを少しやってみようと思って居ります。あXいふものも静岡でやった爲によい物がない、それに花が彩くなったから良い物を出す気分になって来た。トマトでも或ら程度まで駄物は小笠原物で殆んどやるんですけども、特殊なよいものだけは束京でないといって困って居ります。岩崎の主人がトマトだけで出来るといって、態々自動車で以て出てくる。生で食うものは或る人には、味覚の発達した人にはほしいんですね、そういうような果実をまたやってもよいんだと思うんです。ただ春先空きますから、トマトとかメロン位で、少しやってみたいと思いますが、静岡、神奈川では大量栽培や農家の副業としてやって居りますが――。
長門
僕は三間位メロンをやって見ようかと思って居ります。
森田
神田市場でメロンというものは三、四十銭位或は五十銭位ありますか、それが特殊な高級な果物だと思って居りますか、大衆化して、メロンというものはそうおいしいものではないという気持ちがして来たので、そんなメロンでなく元へ戻って高級なものというそういう時期か知れませんね。
伴田
メロンは温室村では加藤さんが作って居りますね。
犬塚
加藤さんは冬のメロンはやめました。
伴田
メロンは何の後へやって居りますか。
犬塚
加藤君は球根の後にメロンをやって居りました。
伴田
森田さんところは何の後へやりますか。
森田
バラの後か、苗を作るその後が丁度あれですね。
伴田
私たちはシクラメンの後がメロンです。三月まで咲いて居りますから、そのあとヘメロンの苗を植えます。
石井
品種としてはやはりアールスフェボリットですか。
伴田
アールスフェボリットだけですね、この頃はだいぶ大井が進出して来ましたが、白肉というものは歓迎されませんが、もう少し経つとよくなりましょう。
石井
いまは割合品質からいうと中等品というところのメロンが多いのじゃありませんか。
伴田
多いんですね、甲州、浜松の品が最も多いが、しかし一番品価の良いのは神奈川のものでしょう。
《以下次号》
(3)3月号
燃料の問題
石井
いろいろ問題を変えますが、石炭や何か燃料の問題ですが、共同購入をやって居られるようですが、その経緯(いきさつ)を一寸伺いたいのですが。
犬塚
温室村では共同購入で買って居られる方と、単独でお買いになって居られる方と二通りございます。だいたい大半は温室栽培社組合から買ってる人が多いのです。共同購入―個人でお買いになるのは大きな竈(かま)とかその他何かの関係のある方が何でも四、五人でございます。後は全部組合から買って居られます。それで炭質などはボイラーによって適、不適がありますから、個人でお買いになる方も、自分の竈に適しないとか何とかいふので、組合から買わない方がありますが、だいたいが夕張の中塊炭を用いてます。伴田さん、荏原園芸組合の方々はどうでございます。
伴田
そうですねえ、荏原の組合では夕張中塊は、温室栽培者組合で特約しているから、それ以外の良い色々な炭を置いて、好きな物を焚くようにしています。
石井
共同購入は市価より余程安くなって居りますか。
犬塚
夕張中塊は、東京温室栽培者組合の特約炭ですから、普通の市価というものと、どういう割合になって居りますか。相当安い物を分って居るつもりですが。
石井
坪当りどの位の燃料費がかかりますか。
犬塚
カーネーションとバラによって違いましょう。又チューリップやフリージヤのような促成物など作るものに依って違いましょうが、カーネーションでは私の家などは非常に去年は節約しましたのです。金額にして坪当り一円五十銭位のものです。どの位の重量になりますか。
長門
宅あたりは〇、一七噸(トン)位ですから。
烏丸
私の温室あたりは三円五十銭かかりますから倍ですが。
森田
僕のところは三百噸です。千五百坪ですから、これは連続的に焚いて居りますが。
伴田
そうすると五分の一噸使って居るんですね。
森田
バラはカーネーションの倍以上かかります。
肥料は何を使っているか
石井
肥料は温室では、主にどんなものを使いますか。
犬塚
〆粕、骨粉、藁灰、牛糞を元肥にして、後は過燐酸石灰です。
※〆粕=魚肥の一種。イワシなどを原料として搾油し乾燥したもの。
伴田
牛糞を使ってコガネ虫は湧きませんか。
烏丸
割合つかない。ベトベトのうちにやりますから。
森田
コガネ虫の幼虫というものは水に溺れます。ですから乾かせば幼虫が出ますが。
伴田
そうですか、家あたりはコガネ虫の幼虫が湧いて困るから牛糞はやめてしまったんですが、ベトベトのまま敷けばよいのですね。
森田
それで敷きますがね。
伴田
カーネーションはベタベタの堆肥を敷いて、その上に培養土をやるんですか。
森田
そうです、それで大丈夫です。
石川
それをやる家とやらぬ家とあります。牛糞を三列か四列位に入れる、そいつを端から切り返えして行く方法とあります。
長門
あれは生(なま)を敷いても、一度醗酵さしても効果はありません。生のものを敷くことはどうしてもよいとは考えられませんが、生で醗酵してしまいますから、全部醗酵さして綺麗にしたものを下ヘ敷いても、生のものを入れて行くのも同じですね。変わりませんね。
烏丸
それほど変わらぬけれども、乾しておけば少ないやようでも量は多い。
伴田
人糞は些(ち)っともお使いになりませんか。
石川
使いませんね。
森田
丁度土堤の上に青草があって刈れるんです。それと比較すると、青草一貫目一銭でも牛糞一台五十銭位で持って来ますから、ずっと安い。地方で農家で青草一貫一銭目位なら安いといって居ります。しかしモット牛糞が安く得られます。
烏丸
けれども牛糞はそのうち無くなりますね。
伴田
すると各家庭の人糞はどうして居りますか。
烏丸
金を出して取って貰って居ります。
伴田
それは面白い話ですね。
長門
それと見習生などが人糞を使う事を喜ばないという事もありますね。実習生などが高尚になったといいますか、無精になったといいますか、以前と較べで最近一般に元気がないということは確かですね。
森田
それだから牛糞だっていやなんだが、人間の糞よりはいくらかよいというところで取扱っているようですね。
長門
牛糞を手で持ってやったものですよ。
烏丸
今でもやって居ります。園芸をやっている人がそれが出来ぬようでは仕方がありません。
長門
しかし、以前と比べてそういう汚ないことはやりたがらない。牛糞を敷けというと、シヤベルを持って来てやって居るという。そういふような傾向になりましたね。だから人糞を使えなんていうと、身慄(ぶる)いをするのが多いのじゃありませんか。
伴田
人糞を柄杓で汲んでおいて過燐酸石灰を 入れますが、そいつをシャベルに入れて手掴み。平気でやって居りますが、あれは来た時からやらなければいけませんが、
森田
いつか御大礼の時の花をやった時、人糞を使ってはいかぬというので、御資料のものですからとやかましくいったことがあります。
長門
一つは習慣ですね、温室村では人糞を使わぬものだという習慣になって居りますが、カーネーションの芽を立てるのには人糞が一番よいようですね。
鈴木
私はチョット使ったことがあります。
犬塚
私の経験ではカーネーションには、小便は注意して使わないと、どうも軟弱になり易いように思われます。
伴田
南葛飾区の方へ行きますと人糞を使わないところはない。肥料は全部人糞ですからね。他には堆肥ですね。ところが温室村では金を出して汲んで貰うというのは従来の園芸から考えると恥辱みたいですね。
石井
温室村では肥料代は生産費の何割位になってますか。
長門
僅かですね、坪当り五十銭につくかつかないんです。
犬塚
一年を通じてですか。
伴田
骨粉一噸八十円、それから牛糞なんかと相当なものでしょう。
長門
宅あたりではまァ五十銭で足ります。
犬塚
そんなものでしょうかね。
薬剤の費用
森田
むしろ薬剤が肥料よりかかるか知れませんね。
烏丸
薬剤費は生産費としてはよほど多くかかる。だいたい二百円位は使っている。
伴田
薬品代というものは私たちあまり考えませんが。
犬塚
肥料の半分位に当りませんか。
石川
その位使えばいいんだろうが。
長門
それを使わないから枯れるのか知れませんね。
石川
三分一は土の消毒その他です。
石井
主として薬品はどんなものですか。
石川
二コチンですね、土の消毒に二、三年来クロルピクリンが出来ましたが、硫酸二コチンの代用としてハルクなんかもよいと思います。
烏丸
ハルクは高いから誰も使うまい。
伴田
除虫菊の化合剤でしょう。
犬塚
薄荷も入いって居ります。一喬厄介な団子虫はよほどかけなければ死なないようです。
伴田
植物に害はありませんか。
犬塚
害はありませんが、汚点がつきます。
鈴木
娯楽園芸家にはいいんでしょう。
石井
病虫害で一番困るというのは何ですか?
犬塚
スパイダーでしょうな。
※アカダニ(ハダニ)のことだそうです
鈴木
それから夜盗虫です。
長門
葉まき虫。
森田
それにあぶら(虫へんに牙)虫がつきます、バラにあぶら虫がつくと困りますね。
烏丸
尺とりも隨分居るね。
温室経営の将来
森田
僕はこういう考えを持って居りますが、座談合なんかで書いてある記事はその方の專門家の言ったことで、これを一般の人に応用するのにはよほど割引しなければいけないと思いますね。言ってることは専門の上手な人ですからね。従ってその収入なども、やり方なども、設備なども、所謂大家が十年先のことを言っているような訳で、尖端を走ってるんですよ。だから事実はまァそうなかなか行かないんです。カーネーションで十五円あがるといっても、事実は十円と見なければならぬという事を地方の人も分ってほしい。それからもう一つは温室村の専門的な経営と、地方の人が副業的にやるのとは色々の点で違うものだという事を考えればなりませんね。それで地方で不況だから一つ転向して行こうという人には、よほど確(しっか)りした気持で行かないと大分見当が迷って来ると思います。
犬塚
温室村の我々は、兎に角僕のところではこういふ訳ですと自分のところの良い話ばかりしたがるのですからね。
森田
そうですよ。座談会の話というものは成功話はするけれども、失敗の話は避けて居ります。したがって地方の人に取っては、農村不況の場合ですから、都の温室村は有利であるかの如くに見て、地方人を誤っては困りますね。
石井
その点は充分に注意せねばなりませんね。
鈴木
私のところにも農学校や技術員連中が可なり来ますけれども、その時によく話をしますのは、やっばり今のような話で、そのまま見てそのままに指導するのはよほど考えなければならぬ。自分の農村なり位置、都会に対する考えを決めてやらなければ間違うということをよく話しますが、地方の技術員など行詰まった農村の展開策としてメロンや何か目先の変ったものを奨励したらという考えで、周囲の事情を考えずにやる人が随分ありますが、これを真に受けてやった人はえらい失敗に陷って、飛んでもない迷惑をするというのがあるらしいんですね。
伴田
温室屋さんは売上げが多いような事をいって、失敗談を言わないのが常です。いつでもよく出来たということをいうので、それを聞くとやって見たくなるんでね。私等でもお前さんところのフリージヤは幾らといわれると。事実三銭でも五銭だという、事実三銭のクセに五銭だというのです。また石炭はいくら要ると問われると、三円使って居っても一円五十銭というんですからね。これはどこでも同じらしいんです。だから今日の座談会でもその点で割引して読んで貰ってよいと思います。
石川
現在の経営状態では、温室三百坪として坪収入十円の標準ではいけませんね。十五円前後でなければいけません。
森田
温室村全体を通じて見れば、今晩お集まりのお方はそれでよいとしても、全体の温室村を標準としてはその割引が肝要だと思います。
石川
十五円以下のものはその温室は失敗して居るものだと思います。
長門
或は意味からいうと、俺のところは十五円あがってる、お前ところは十円あがってるといいますけれども、十五円しかあがってなくっても十円の経営で済むのと、四十五円あげるために五十円使って居る場合とがあるわけです。それで実際の収支がいくらということを見なければ標準にはならぬのです。四十五円あがってるということは儲かってるというように考えられ易いんですが――。
石川
作る物によってですね。カーネーションは十五円あがればよいが、菊などはそうは行きませんからね。
犬塚
たとえばこういう話をする、百坪位で食うなり娯楽なりにやるのなら標準として、事業としてはとても百坪ぐらいでは収支償わない。それとも大きな資本を投じておやりになるならよいが、その代り最も手腕のある主任とか技師、そういう経験があるお方でなければいかぬというと、大抵の人はまァ考えましょうといってその時は帰る。その後考えたり聞いたけれども、貴方と御同様な意見だったから止(よ)しましたという方が多いのです。
森田
まァ温室というものについては、今までやってない境地を拓くといふ事が一番ですね。長野とか新潟とかが現在の温室村が歩いて来た足跡をたどっているようですが、この方法でなく、その土地に適応したものを選んでやる方法を発見した人が成功して居るようですね。
鈴木
しかしメロンが全国的にあれほど増えたのは雑誌の宣伝が利いた結果でしょう。
伴田
学校を出たものがよく訪ねて来ますが、私は言うんです。「いくら資本を持って居るか」「これだけあります」「じゃ花屋をやれ、作るなんて馬鹿はない、温室をやっていくいく(※いよいよ)失敗という段になると、温室は二足三文にしか売れないが、花屋なら権利がある」というんだが、ところで花屋をやろうという者が学校出にはないんですね。本当にやるなら作り屋 をして花屋をやればいい、こういう理解があればいいんでしょうけれども。
森田
実際、今の花屋は資本のある人がやればいいと思うんだけれども。
烏丸
花をやるにしても、やはり生花(いけばな)に年期を入れなければね。
鈴木
洋花だけではいけませんからね。
伴田
いや洋花だけでも出来ましょうがね。十円位で――造花ですと、十円はこれ、十五円はこれと直ぐ見せてくれますが、生花屋(いけばなや)へ行きますと、それが分らぬものでも、見本を一つ位拵えてやればいいんですけれども、やるならその位の花屋を誰かやってくれないかと待って居るんですが、なかなかないですね。今のところ作り屋さんが売れない売れないといって、皆にこぼして居るんですから、作り屋さんから資本を出して花屋さんに生花(いけばな)宣伝をやらせる。花屋は造花を売っても生花を売っても利益になればいいですけれど、結局我々生産屋が運動費を出さねばならぬ。今のお葬式の花だけでも生花に変ってしまったら、今の倍にはなると思います。そうなれば倍にならなくとも、今みたように値段に高低がなければ、毎日平均相場に売れて行くようになりますよ。そして造花が無くなれば、そうすれば温室というものは増えて来ますからね。
生花の消費の問題
石井
生花の消費宣伝者と共同して徹底的にやる時期が来なければならぬと思います。化粧品屋が観劇デーをやってるとか、食料品が見本を配るとかいうことに倣って、花の方でも絶えず何か宣伝をやるんですね。花自動車なども絶えずやる方法を講じるたら如何です。そうすればもう少し消費を高めることが出来やしないかと思います。
長門
ビールの広告費は会社で出して居ると同じように生産者が宣伝しなければいけないんだが。
森田
ところがその費用をどういうふうに出すか、なかなか生産者というものは第一線に立てないんでしょう。
伴田
いまの所よい方法は市場で売上げの一歩でも、二歩でも積んで置けば、よいと思うのですが、これが公平な割り方としては、よけい売れる人はよけい出すという事にするですね。
長門
或る人が個人的にやるものがあればいいですけども、仮に私がカーネーションを作って宣伝をやる、長門農園のカーネーションという風にですね。しかしそれが目的について効果あるように行くかというと、そうはいかぬのですから、個人的の宣伝というものは不可能です。
伴田
だから川魚商は、川魚はビタミンが幾らあるといって宣伝するし、豆腐屋では豆腐屋でやり、蕎麥屋は蕎麥屋でやっているんですから、我々だってまとまって行かなければなりません。
長門
カーネーションをやるには、カ-ネーションを作ったものがやらなければ―。
伴田
それには先にも言ったようによけい売る者がよけい出さなければならないですね。
石井
昨日もジャバの読者から写真が来たんですけれども、スワンの頸に一万本の花をかけて居るとかいう、随分思い切ったことをやって居りますね。
森田
外国ではそうらしいんですね。
石井
それではこの辺で、どうも色々と長時間にわたりまして有難うございました。
この座談会は極めて好評裡に此れで終りました。次には趣味の園芸の方面と、明治の園芸の開拓者である福羽子爵の業蹟を中心に当時の衝に当って居られた方に伺った記録を発表する予定です。