1972年4月、富山県のチューリップ60万本をつかった巨大なイベントが行われていた!「名鉄セブン」オープニングイベント
1972年宣伝会議 7月号 浜野安宏氏に聞く 記事全文抄録
イベント
浜野安宏氏に聞く 名古屋「名鉄セブン」オープニング・イベント
4月28、29、30日の3日間、名古屋で”ONLY ONE EARTH“地球の日―花の革命というイベントが行なわれた。これは名鉄の若者向けデパート『名鉄セブン』のオープニング・イベントで、花と緑とロックとファッションのトータル・イベントというもので大変な成功をおさめた。本稿はこのイベントの総合プロデュースをやられた浜野安宏氏に、このイベントを語ってもらうとともに、これからのイベント戦略全般についておたずねした。
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ぼく自身の問題としては、自分のいいたいこととか、自分の創った作品を、世の中に暴露(※ママ、披露?)したいということがあった。デパートとしては一軒のデパートをオープニングする、その店は若者のライフスタイル・マーケットみたいなものをやっていく店ですから、できるだけ、若者にアピールしたいというニーズがあるわけです。だからデパートのニーズをぼくの欲求と世の中の状況への呼びかけと、地元の、名古屋という地域の若者の一つの同意形成というようなものをつくりたかったわけです。
世の中に対しては、地球の日という呼びかけによって、地球をもっと大切にしようという一つのキャンペーンみたいなものを毎年やっている。ぼくも原稿書いたり、服づくりしたり、プロジェクトを引き受ける場合も、そういう姿勢で仕事をやっているわけです。全く単独に、ぼくらなりにやりたいことをやって、それがデパートのやりたいことに、直接オーバーラップしないでも、お互いにそういう刺激を与えながら、お互いのメリットを生んでくるというふうになればいいと考えました。だから、デパートのPR、販促ベッタリではなくて、全く、そういうものを無視する姿勢で呼びかけやら、街での運動を展開していく、それがしいては(※ママ)、オープンした新しい名鉄セブンへと客を向かせる方法になってくればいいわけで、わりとその辺としては、完全に当ったと思います。
初日は平日だったのですが、初日の売上げは、まあ目標程度であったけれども、2日目、3日目とだんだんアップして、目標額をはるかに上回る数字を達成している。ぼくらとしても、初日はかなりシラケていた、2日目かなりのってきた、3日目はもうメッタメタのってすごくよかったわけです。
それから花があれだけ集まったのも、奇蹟的です。本当は最後まで心配だったわけです。というのは、花のイベントというのは、花そのものというのが、普通のライターとか、紙とか、服とかいう、製品だったら、そのために、60万着、60万個集めるためには、増産すれば集まるわけです。ところが花というのは、それまでに台風が来るかもしれないし、大雨が降るかもしれないし、わからない。そこでずいぶん。石川洵くん(花の企画社・今回の花のイベントディレクター)が苦労したみたいですね。結局、主体としては、ぼくらが計画をやったけれども、実質すごく動いてくれたのは、「花の企画社」のメンバーで、花に水をやったり、そういうのがすごく功を奏しているわけです。そういう意味で、今回のイベントは、かなり専門領域、花の企画社という専門領域と、浜野商品研究所という専門領域が組んで、それと地元のヤングパワーが絡んで協力したからできた、みたいなイベントだと思うんです。地元の若者の同意形成をやっていく段階でも、まあ街をきれいにするということで、100人の若者に MAKE IT CLEANというTシャツを着せて、名古屋市内のそうじをさせたわけだけれども、10人の“こいつはいい”という若者を集めて、その人に9人ずつ友達を集める責任をもたしたわけです。そうしないと、ぼくたち、名古屋に知人も何もいないから、それを金で集めるのではなくて、ただで奉仕してもらわなければ、いやいや、金をもらったからやるでは、困るわけで、それがまあうまくいったということです。
はじめのうちはただ、そうじをするだけだったのだけれども、その集まったゴミを市の清掃局の人に、花と一緒に渡して、感謝状を贈呈するというふうなことをやったわけです。それは、毎日、名古屋で清掃車を運転している人だとか、ゴミを実際に拾っているおじさんです。彼らは非常に感謝して、目がうるんで、手がふるえていた。「そういうことをしてもらったことがない」というわけですね。そういうのをやって良かったということもあるし、若い子も非常に楽しそうに、ハイキングするみたいね街中そうじをしとったわけです。このイベントのねらいとしては、ごく日常的な顔をして出勤している人たちの前で、若い連中が、“MAKE IT CLEAN”というTシャツを着て、ただ一生けん命そうじをしている。つまり、日常的な行為に対して、日常的な行為というイベントをやる。このようなイベントがこれから功を奏するのだと思うんです。要するに、日常的な顔をしている人の前に非日常的なことを見せても“あれは宣伝だ”とか、あれは“特異なことをやっているだけだ”ということになってしまう。そうではなくて、日常に対して日常をぶつけるというのが、僕の今度の一番のねらいだったわけです。
そういうことで、街をゆく若者でも、年寄りや子供やらに花を手渡してゆく時でも「名鉄セブン」がオープンしましたから、ということは、いわないで、「花を飾って下さいね」とか、「花を植えるようにしてくださいね」とかいうことをいわせて花を渡す。できるだけコマーシャルぽいものをいっさいしない。ただ方向として、フラワーギビングをやりながら、「名鉄セブン」の方へと歩いて行くというやり方であるとか、それからそうじをしている人たちのTシャツの中にちょっぴり、小さい字で名鉄セブンと書いている程度なわけです。それから、名鉄セブン・フラワーズというのがおりまして、それに花の7色のぼくがつくった服を着せておく。そのセブン・フラワーズというのは、ある程度、名古屋中にパブリシティがゆき届いているわけです。その連中が花をあげている、その他にヒッピーやら、若者が花を渡してゆくというようなギビングもやりました。
それと、ここでずっと主張していたのは自分自身でやらなければだめだということで、世の中が悪いとか、体制が悪いとか、オヤジが悪いとか、いっていても、結局、君ら自身の問題なのだから、君らがやらなければだめだという、それは結局、今のファッションにつながっているわけです。今のファッションというのは、あらかじめセットされた服ではなくて、自分でオプションを組み合わせて着なければ、うまく着られないわけです。流行とか何とかというより、どんどん出てくる新しいオプションをうまく自分の生活にしていかなければならない。そういうこととつなげていく。そこで店内では手づくりバザールというのをイベントの一環としてやって、中でヒッピーが彫金しながら指輪をつくっているとか、ジーパンに手描きをやっているとか、そういうのがものすごく売れたわけです。屋上は屋上で、一種の花園みたいなものをつくりまして、ステージから何から植木鉢を並べて、そこでロックをやらせて、やっぱり去年つくった地球の旗という三色旗をつかって、今年はそこに ONLY ONE EARTH という字を入れた。これは、「かけがえのない地球」という意味で、国連の「第1回人間環境会議」というのが、6月ストックホルムで行なわれるわけですが、そのテーマなんです。国連の先取りなんです。
ロックのバンドも地元のバンドを全部集めたわけです。優秀なのをですね。東京から引っ張っていくと、反感を覚えるので、全部地元で選んで、一人だけ藤舎推峰という日本の藤舎家の笛の名人です。笛がロックとアドリブするシーンを見せ物にちょっと用意したぐらいで、他は、フォークもロックも地元です。そのかわり、ものすごい数のバンドを屋上やら、店内やら、館内の喫茶店や、外に配置して演奏させました。
街では一日中そうじしているし、店内では一日二回花をほおり投げたり、叫んだり、服を見せたりする。店内では手づくりのバザールのイベントをやっていたりっちこっちで、どこの階へ行ってもフォークが聞こえたり、ロックが聞こえたりする。屋上では、産地直送の花のバザールと、樹木のバザールと、金魚すくいなど出ていて、非常に平和な雰囲気で、一日みんなが楽しそうにしていた。
地元の若者の反応としては、2日目に、昨日、そうじした連中のことを報告したわけです。観に来ている人たちに、「君たちの仲間が街中そうじしたんだ」と、みんなシーンとして聞いて、イベントで花がいっぱい散らかしてある店内を、「俺にもそうじさせてくれ」といってホオキをもって自分でそうじをしはじめたという一コマもでてきて、のり具合もよかった。この頃になると、はじめ、ここでこの言葉を主役にしようと思わなかった言葉が主役になってしまったんです。それは WORK FOR PEACE という言葉で、「平和のためにのみ働こう」ということなのですが、それをシュプレヒコールというのか、何度も繰り返して言っているうちに、だんだんみんなも熱っぽくなってくる。この言葉をいい出すと、熱っぽくなるから、二回、三回と重なるうちにこの言葉が主役になってくる。最後なんか筋書きどおりにやらないで、飾ってあった花全部ほおり投げて裸にしてしまったわけですね、徹夜で花のデザイナーたちがきれいに飾ってくれたものを全部、ほおりなげた。もう一つは、「名鉄セブン」の副社長やら、部長やら見に来ていたのですが、それをステージにあげてその時はじめて、名鉄セブンという名をいったわけです。
そして、集まった若者たちに、東京でやれなくて、なんで名古屋でやったか、を説明した。東京では、もうこういう場所がないからだ、ということは、こういう寛容な企業はいないからだ。だから、こういう会社がないと、こういう場所はないし、君たちも集まれないんだ、そこに副社長がいるから、みんなでありがとうを言おうというふうな形で、花をもたせたんです。そしたらみんな、ワァーと拍手するみたいなことでした。そういうことでやっていかないと、「名鉄セブン売ってます、上で買うて下さい」では、やっぱり具合悪いと思うんです。
これからは、社会性を帯ていることとか、地域の中でうまく成り立つこととか、そういうことをすごく考えないと、イベントは成り立たないと思うし、ぼくもそういう意味で、だんだんやる場所がなくなってきている。東京なんか、もう全然やる場所がないです。歩行者天国でもぼくがやったときは、まだそういう条例ができていなかったから良かったけれど、ぼくがやって、ワァーとなって、その次からもうできなくなっちゃったみたいで、もうやる場所もないですし、今度、名古屋のこの場所でやったけれど、またここでやるのもシラケるし、次は九州あたりで探そうかと思っている。
この会場で一番人が集まったときに、ぼくは、地球の日というのを国の祝日にさせようではないかと、毎年、ゴールデンウィークの中日あたりに地球の日という祝日を設けさせたらどうだろうという話をして、その日は地球を大切にしようということで、みんなでそうじをしたり、きれいにしたり、緑植えたりする日にしたらどうかという話をしたら、みんな拍手しましたね。地球の日というポリシーをつくる運動を、ここから逆に発想したわけですよ。
だいたい今回の「名鉄セブン」オープニング・イベントは、セールスプロモーションというものと、地域の新しくなりたいというか、もっとカッコよくなりたいみたいな期待というものと、いろんなものがうまくピシャッとはまって、スケールは新宿の歩行者天国ほど人口もいないけれども、ある煮つまりかたはしたと思うんですね。(文責・編集部)