1970年代の「ベーシックデザイン」の取り扱いについて NFD標準カリキュラム(1972)など
昭和40年代(1970年代)、日本でフラワーデザイナーをいかに教育、養成し、FD人口の質的、量的な発展をはかるか、日本フラワーデザイナー協会(1967年創立)に参集する全国の指導者たちは、さまざまに議論し、教科書となるべき「標準カリキュラム」の制作と出版を目指した。
最初の「NFD標準カリキュラム」は1972(昭和47)年8月に完成した。その後直ちに改訂版の制作を進め、翌73(昭和48)年7月に再版が出版された。
この「教科書」の作成には、さまざまな意見が盛り込まれ、その過程には多くの困難があったという。一番の問題は、海外のように職業訓練のカリキュラムをつくればよい、というのではなく、趣味や教養のために花に関わりたい人たちに向けての内容をも加味してつくらなければならなかったという日本独特の状況に由来する。見本に使う花材も、全国で流通しているものは限られた。それでカーネーションが多用されているのだが、カーネーションが基本、25本束で流通していることもあり、24本でつくるパターン、のようなご苦労があったと思われる。また、そもそも用語の統一から始めなければならなかった。この標準カリキュラムの習得は、普通会員から正会員への登用に関する資格基準となっていく。
初期の様子が感じられる「ごあいさつ」(内山錦吾氏)、と「あとがき」をここに再録する。
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ごあいさつ
「ようやく、ここまでまとまった」この本を発行するためにあたっての実感である。
'67年NFD創立当時、後進の人の勉強のために、日本FDの将来のために、基礎的事項についての意見調整というか.まとめが是非必要であると、会員各位からの要請がつよく、早速委員会を編成してスター卜したが、この作業は意外と困難をともない長い時間を費してしまった。しかしその時の経過が、まとめに幸いしたようである。
問題の恨本的要因は先生各位のFD的T.P.Oのちがいであった。状況的には無理からぬことであるが基礎的事項に対しての影響は大きい。例えば用語についてもアメリカ的、ヨーロッパ的の違い、各地域の習慣的呼称、或いはフローリスト独特の呼び方、デザイナー個人の特徴ある表現に加えて外国語の直訳的解釈等々。これらの事情からプラスして2で割り、また加えて3分する結果となったが、一応の、調整的まとめの目的は果されたようである。また標準と称した理由でもある。
協会としては、この本をとりあえず基礎的事項の参考としてご利用いただき、日本FDの発展に結びつくNFD標準カリキュラムとしていただければ幸いである。
編纂に努力をいただいた関係役職員各位に、謝意を表します。
社団法人 日本フラワーデザイナー協会 理事長 内山錦吾
あとがき
この標準カリキュラムは、普通会員が正会員に昇格するときの受験資格を認定する基本資料です。また日本のフラワーデザイナーにとって.必要最低限の知識と技能を示すものでもあります。
理事長のごあいさつにも述べられているように、これを標準として打出すためには、幾多の意見交換と検討がなされました。ある時は文字通り二日問寝食をわすれてデザインに関する意見統一の論議がなされました。
外国ではフラワーデザインの履修がプロ養成を目的とするのに対して、日本の場合は趣味、教養、あるいは生活芸術としての面も考えなければならず、また外国のものでも日本ではどうか等と検討を重ねたわけです。
名称について、例えばNFDでは一応コーサージと表現していますが、人によっては、コサ一ジ、あるいはコルサージュといっても間違いではなく、決してそれらを否定するものではなく、この本はあくまで各人のいきかた.方針について否定やマイナスをもたらすためではありません。
NFDのいきかたとして、皆様方には一つの目安にして利用して下さればよいのです。
配列、順序、技法等に関しても、NFDではこうだが私の所ではこう考えるということで結構なのです。作例については多少の意向があるかと思いますが、各人がそれぞれの見解で判断していただきたいと思います。
撮影期間が短かったために、より多くの花材が使えず、かなり片寄ったきらいがありますし、また器についても一応留意したつもりですが、中には標準的でないものもあることをご了承下さい。
このカリキュラムを出版するにあたっては、多くの方々のご協力をいただきました。
特に内山理事長、多木、関江両副理事長、笠原専務理事、大石、鈴木、平田、宮嶋、山家(*やんべ)各常任理事、内山、塩谷、藤沢各理事、池宮相談役、の皆様方には、多くの時間と言葉にいいつくせない努力をしていただきました。
委員会としては、これらの方々に深く感謝をするとともに、このカリキュラムが、日本のフラワーデザインの発展に役立ち、多くのご利用をいただければ幸いです。
多くの意向を聞き、全力をあげたつもりですが、不備の点はお許しいただきたいと思います。
1972.8
カリキュラム編纂普及委員会
再版については、事業第2委員会山家直之助、内山ユリ、鈴木紀久子、大野トキ子、塩谷むつ、がご用にあたりました。1973年7月
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ここで、「ベーシックデザイン」とはなにか、ということについて、『フローラルアートの完成』1980に書かれていることを紹介したい。
『フローラルアートの完成』では、基本的にNFDのカリキュラムで紹介されているものと同様であるが、これをさらに分析、展開したパターンを具体的に示している。池田孝二氏は、この本に付属して、ベーシックとニューパターンの関係を示す一覧表を制作した。
この当時のパターンとは、いわば「アウトライン・アレンジメント」というような発想が中心にあった。
以下、『フローラルアートの完成』から
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べーシックデザインとは、フラワーデザインの基本的な能力を養うための基礎技法と基礎知識です。資格取得や、技能習得のために履習されると良いでしょう。
この章に於ける、種々の作例には、べーシック・パターンの約束事を基準にしています。この約束事について述べてみますと、先ず、花材は、カーネーション24本以内、小菊20本、ユーカリ1束を使用し、デザインの主軸は、カーネーションを使用しています。
次に、図に於ける主軸の位置は、器の直径から割り出され、1/2、1/3等の位置から出ています。又、作品の厚み、深みを表現するために主軸を後方へ倒す(テイク・バック)場合、その先端が、器の端よりも出ない様に注意して下さい。3番目に、パターンの中には180度展開と、360度展開があります。180度展開とは、一方正面の事を言い、360度展開とは、四方正面の事を言います。第4番目に、フォーカルポイントは、作品の視覚上の焦点となるので、その位置、高さが重要です。第5番目に、メカニカル・フォーカル・ポイントは、全ての花の延長線が構成上で1点に集まっている位置を示します、視覚上では見えませんが、この位置が1点に集まるという事は、まとまりの良い作品を作る事につながります。
各々のパターンの特徴を良く把握することによって、おのずとアウトラインが理解され美しいパターンが生まれるでしょう。
コサージュを制作する上で、特に考えなけれはならない事は、身体につける物ですから、安全性に注意しましょう。ワイヤーリングに於いても、軽く仕上げる為のワイヤーの選択が必要となります。カーネーションのフェザリングをする時には、しっかりとワイヤーリングする様に心掛けましょう。
構成上では、180度展開にしますが、やや丸味を持つ事が必要です。メカニカル・フォーカルポイントは、1点にまとめ、しっかりとワイヤーで止めます。この止められた所は、平らに作られるのが良く、その位置は、1.2cm以内に納める様にします。
ステムは、デザインの1つでありますので、全体のバランスに合わせて、程良い長さが必要です。
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