椿の木に白い手がはえる奇怪な現象について 『植物妖異考』白井光太郎


ツバキの木から手がはえた―――という奇怪な話が『植物妖異考』にある。
上の図のように白い手がはえている。

 これは、ツバキやツツジの仲間だけにかかる、また、わりと普通に見られる「病状」だという。
 先日、2022年3月19日に行われた第16回伝統園芸研究会の集会のお話の中に出てきた。「モチ病」という。葉が白っぽく膨れてモチを焼くときに膨らむあの様子に似ている。ときに、指状に見えることもあるため、ツバキから手が生えてきたような姿になることもあるのかもしれない。
病気としてはよいことではないが、このように葉の変形がおきる以外に深刻な実害がないため、病気にかかった葉を白い粉がふくまえに丁寧に取り除いて始末をするといいらしい。
 おもしろいのは、このモチ病にかかった葉を食べる風習のある地域があるということ。おいしいものではないみたいだが、民俗学的に面白い話だと思う。
 ツバキは、花を天ぷらにしたりする場合があるが、中国雲南省などでも食材として利用する地域があるそうだ。

以下の論文に同じ図が掲載され、詳しい解説がある。
「雪国の植物 ユキツバキ 37   ユキツバキの餠病菌の寄生」 石沢 進 新潟県植物保護協会 2009年

https://niigata-u.repo.nii.ac.jp/records/30485#.YjvgiudBy00


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白井光太郎 『植物妖異考』有明書房1925(大正14年) 

文化2(1805)年5月10日、群馬県太田市竜舞のツバキの枝から小さな手が生えているのを発見!その手は白く、およそ6、7歳くらいの子どもの手のようであったという。(*東武小泉線に「りゅうまい」という駅名にその名が残る)

椿木生人手

[見聞雑記] 

 御勘定吉川栄左衛門支配所、上州山田郡ノ内、龍舞村(*群馬県太田市)名主隠居庭ニ、文化二年五月十日比、左図ノ如ク椿木ニ人手生ズ、其色白ク、六七才位ノ小児ノ手ノ如ク、厚サ手程ニテ爪ハ鳥ノ様子少シ有之、蟲ノ巣カ、又ハ朽木ニ出来候茸ノヤウニモ相見エ候ヨシ、同月十三日稲垣藤四郎手代、中澤良右衛門儀郷村巡リノ時、見及ビ候由

 椿ノ木ニ人手ノ如キモノヲ生ズル椿ノ餅病ニ罹リシ場合ナシ。手ノ如キ物ノ他二桃二似夕ル丸キ物ヲ生ズルコトアリ。其他奇形百出名状ス可ラザルモノヲ生ズ。是物ハ右説明書二蟲ノ巣カ、朽木ニ出来候茸ノ様ニモ相見エ候卜云フ観察至極其当ヲ得タルモノニシテ、寄生菌糸ガ葉芽、花芽ノ組織中二侵入シテ此ノ如キ変形物ヲ生成セシメタルモノナリ。伊豆七島ノ中ノ大島ニテ、之ヲ椿ノイモチ病卜名付テ椿ノ可(*レ点)恐病害ノ一トセリ。予甞テ植物学雑誌第百十三号二此類ノ病害菌数種ヲ図説シ亦明治四十四年七月ノ農業国ニモ此菌二就テ図説セリ。此椿ノ餅病ニ二種ノ区別アリ。一ハ其子実層ヲ被害植物葉ノ外面ヲ去ル数層ノ内部ニ生ズルモノニシテ、一ハ直ニ其外面ニ生ズルモノナリ。共ニ其芽胞及担子嚢ノ形状ハ殆ンド同大ニシテ区別ナシ前者ノ植物学的記載左ノ如シ。

 ツバキノモチビヤウノカビ(Exobasidum Camelliae, Shirai)子実層ハ初メ変形肥大セル被害部ノ深層中二生ジ、十個若クハ十数個ノ表皮下細胞組織層ニヨリテ被ハル。後之ヲ破リテ外出シ、自色ノ厚層ヲナシ、被害部ノ全面ヲ被フニ至ル。而シテ破裂セル表皮下組織ハ、多数ノ細層片ヲナシ乾燥シタ褐色ニ変ジ、一部ハ子実層面ヨリ離脱シ、一部ハ所々に島しょ状ヲナシテ着存ス。共芽胞ハ担子嚢頭毎二四箇並ビ生ズ。長楕円倒卵形ニシテ、長一四・五――一七μ幅七μアリ。

 此種ハ常ニ山茶ノ花芽ヲ犯シ、変形肥大セシム。第二十八図ニ示スガ如ク略ボ花葉ノ形状ヲ具フルアリ。何トモ名状ス可力ラザル形ヲナスコトアリ。又ハ稍老成セル子房二寄生シ、桃実状ノ球塊ヲナサシムルコトアリ。

 五月頃東京ニ於テ普通ニ発見ス。伊豆七島ノ如キ山茶樹ヲ植林シ、子実ヨリ油ヲ搾ル地ニ於テハ此菌ノ為ニ屡 大害ヲ被ルコトアリ。彼地ニテ之ヲツバキノイモチトイヘリ。

 後者ハ稍、老成セル葉、新枝、葉柄等ニ侵入スル場合ニシテ、其子実層ハ被害部ノ外面ニ露出シテ形成シ、往々著大ナル嚢状変形物ヲ葉上ニ生ゼシムルコトアリ。

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