見直される自然素材 1968年(昭和43年)のフラワーデザイン「ファンデーション(土台づくり)」の作り方

『フラワーデザインのすべて』誠文堂新光社 『ガーデンライフ』別冊 1968年から



●オアシス(吸水性スポンジの元祖)が普及し始めている。オアシスに挿し込む茎の長さは2~2.5cm程度で深く挿すことを求めていない。それは、茎が多く刺さると、内部で茎が交差・集中し、たくさん挿せないからだという説明。植物によって水を多く吸い上げるものとそうでないものがあるので、内部で水の奪い合いがおこることも想像できる(現在は器に入れる場合、しっかり水が貯められるのでできるだけ深く挿すようにするのが主流だと思う)。

●また、茎同士が押し合ってスポンジブロックが割れてしまうということも指摘している。オアシスを使う際に、チキンネットをかぶせるように写真で解説しているところからも割れやすかったことが推察される。制作中にオアシスが割れるということほど悲惨なことはない。全部やり直しだ。

●当時のオアシスは、準備のために水を吸わせる時間が10分~15分もかかってしまう、と書いてある。現在は数秒で準備ができる。国産品はまだ品質がよくなかった。

●かご花に用いる「オトシ」には、スギの葉などを逆さまに(葉先を下に向けて)してつめものとして使った。

●フラワーデザイナー、久保数政氏の『フラワーデザイン覚書』には、甲南大学4年のときにランの大家、合田弘之氏(国際園芸)の紹介で第一園芸の研究生になる。このとき、桶にヒムロをつめる作業をたくさんやったと書かれている。作業場には大量のヒムロ杉があった。入れる花に合わせて密度を調整する。詰めかたによって、花を挿せる深さや花のボリューム感まで変わってしまうので「きちんとつめることができるようになれば一人前」と言われていたという。

●テーブル装飾などに水苔を板につけたものを使う場合もあった。現在では、ふたたびこのような「化学製品を使わない」ファンデーション・ワークが注目されるような時代になってきている。


●どの本に書いてあったのか失念したが、自分の2017年のメモに次のようなものがある。「ハコベリー」「ハッカベリー」のことを忘れないでここにもメモしておく。

こんなことが戦前の本に書いてあった。

かごに花を挿す。

かごに花を挿すには、かごにオトシを入れてそれに水を入れて保水して花を生かす。

オトシはかごのサイズに合わせてブリキでつくられる。

オトシに花を挿すときに、花をピタリと留めるように、オトシの中に枝を入れてツメをつくる。ツメはヒムロスギとかクジャクヒバとかタマシダを使う。カリフォルニアでは、「ハコベリー」をそれ専用に使っていた。ハコベリーとはハックルベリーのことだ。

初めて気づいたのは以下のようなことだ。

オトシのツメはゆるくてもかたくてもいけない。ちょうどいい挿し具合に調整する。

オトシにはまず水をいっぱいに入れてツメをよく湿らせる。水を入れたら、花を挿す前に、オトシをひっくり返して、水やゴミをざっと抜いてしまうこと。それから挿す。

オトシのなかのツメに含まれた水で十分に花を養生できるからそれでよい。

アレンジした花籠はそれを配達、あるいはセットしてから水を足すのだ。

簡単なことだが、アメリカで学んで初めて知り得た大事なことです、と書いてあった。


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ファンデーション・ワークについて

いとうみさほ いとうみさほフラワーデザインスクール学長


 ファンデーションとは,何らかの方法で花材を固定し、ひとつの形にまとめ上げるための土台、つまり、下地作りのことをいいます。花をあるひとつの位置に保持する‥‥そのための下地とすれば、何を使ってもいいわけで、事実、私たちはいろいろなファンデーションを工夫しています。

 いけばなでは、剣山やしっぽう(*七宝)などに素材の枝もとや茎もとを止める方法がもっとも多く用いられているようです。剣山の場合、素材を上からつきさして傾け、その傾斜度を強くしたり弱くしたりして形をとり、しっぽうもまた同じように上からさしいれ、こみなどを使って傾斜度を加減しているようですが、フラワーデザインでは、造形的、色彩的なバランスの上から、花やみどりを下へ向けて止めることも必要で、よいファンデーションの条件のひとつとして、いろいろな位置から、いろいろな方向へ向けてさし止めのできるものということがあげられます。

 そのほかの条件としては、素材がさしやすいもの、または止めやすいもの、素材をいためないもの(花材に有害な物質を与えないもの)水をくさらせる可能性の少ないもの、持ち運びに不自由をきたすほど重くないもの、それ自体の作り方が簡単なもの、コストの低いものなどです。

 もちろん、このほかにもそれぞれの作品によって、種々の条件もでてきますが、前述の諸条件になるべくかなっていることの上に、目的に添って加味し、よいファンデーションを作りだしていくのです。後で幾つかのファンデーションの特徴と作り方を説明しますが、それらを単独で使う場合と、二つ以上組み合わせて使う場合がでてきます。

 例えば、花止めスポンジをチキンワイヤーで包んでいれるとか、スチロフォームとミズゴケなど、作品作引こ、もっともよい条件のファンデーションにするわけです。

 また、ファンデーションワークを広義にみると、ワイヤリング、テーピング、ピッキング(串づけ)、リボンワークなどもはいるのですが、そ

れらの仕事は別項にゆずって、ここではテーブルデコレーション、プレゼンテーション、インテリア(各会場デコレーションも含む)一般のアレンジメントに共通するものについて、ひとつひとつ説明したいと思います。





オアシス、クイッキーなどのスポンジ

 吸水度の高い砂状の物質(合成樹脂製)を特殊加工によって、固形物にしてある生花用スポンジで、今のところ、花卉類をさす上でこれほど使いやすく便利なものはない、といっていいくらいです。よほどやわらかなステム(スミレ、カラーなど)でないかぎり、たいていのものは、ごく簡単にささります。

 テーブルデコレーションや小さいアレンジメント用として、円筒形にしてあるものもありますが、一般には23×11cm、厚さ8cmの形が多く使われています。これを器の内容、また、さす花材の量によってナイフで裁ち分けて使います。さらに大きなスケールのものには、2~3個と花量によって、チキンワイヤーで包み合わせて用いますが、大きな壺類や深い盛り鉢類では、粉末状の花止め砂(合成樹脂剤)を器の中にたっぷりいれ、ステムをちょうど砂地につき立てるようにしてアレンジしたほうが便利です。

 (*この生花用スポンジは)たっぷり水を含ませると、まったく水を含んでいないときの約100倍近くの重量になります。つまり、それだけ多く水を含むというわけです。そして乾いたままの状態での持ち運びは、たいへん簡易であることはいうまでもありません。

 保水量、保水時間が長く、水をくさらせる心配もないので、何日間か飾る場合はそのままの状態で、1日に1回さし水(水の補給)をしてやればよいし,上からや斜めからはもちろん、真横へも下へも向けてさすことができるので、自由な造形が手早くできて、フラワーアレンジメン卜のためには最適のファンデーションといえます。

 ドライフラワー、布製造花などのベースとしてもすぐれています。もちろん、その場合は水を含ませる必要はありません。ただ、圧縮したりして小さくして貯蔵することができないため、大量にストックするにはそれだけの場所がいるということ、国産品にいいものがないため、輸入に頼っている状態なので、ややコスト高ということが、難点といえましょうか。

 日本でもにたようなものを作る試みはされていますが、水の吸いこみ度が悪いのです。吸水度はよくても、もろくて花をさしているうちにくずれてきます。固形物にするために使われる薬剤中に、花のために、よくない成分か含まれていたりするなど弊害があって、今のところ感心できませんが、近い将来、必らず国産品のよいものもでまわってくることでしょう。

 オアシスのほか、クイッキー、フィルファーストなどの名称で、同じような製品もできています。オアシスが充分に吸水する時間が、前記サイズの矩形で10~15分かかるので、仕事の能率化をはかるため、その吸水時間をもっと早めているということが強調してあり、製品にこれらの名称がつけられているのだと思います。


チキンワイヤー

 いわゆるとりあみ(ケージにはる)のことです。比較的目の荒いとりあみを器の内容積に合わせて折りたたみ(たたみ方は、写真、図参照)、その網目に花材をさしいれてアレンジングするのです。器に合わせて折りたためるので、スケールの大小を問わず、簡単にベース作りができること、金網ですから、このもの自体が水をくさらせる心配のないこと。さらに軽いこと。コストがひじょうに安いことなどファンデーションとして、たいへんよい特徴をそなえています。

 ただし、壺類や陶製、金属性などの鉢類でまわりに止めることができないものの場合は、くるくる動いてしまうので花材を固定するベースとしては不適当です。

 チキンワイヤーが適している器は、何といってもバスケット類です。籠の網目にワイヤーを通してチキンワイヤーの目とからげ合わせて固定します。小さいバスケットでは2ヵ所、大きなものでも四方からねじり止めしておけば、動いたり飛びだしてきたりする心配はありません。

グリーン類のつめもの

 ヒバ、ヒムロ、サワラ、サカキなどの小枝(葉のついた部分)を切り揃えて器の中へある程度ぎっしりつめこみ、これに花材をさしいれていきますが、もともと有機物ですから、長い期間飾るものには器にいれた水をくさらせてしまい、新鮮な水を必要とする飾り花や葉のためによくありません。まして、夏は水ぐされが早く、悪臭をはなつので、使わないほうが無難でしょう。

 ただ、日本では前述の枝もの類が比較的豊富なため、それらのコストが低いこと、小枝と小枝のすき間には融通性があり、ステムの太いものも細いものも自由にさしいれられ、早く仕事ができること、大きなスケ-ルのものにも簡単につめいれができることなど、とくに手っとり早く仕事ができるということは、時間的に余裕のない会場デコレーション、フューネラルワークの場合、とても便利な下地となります。日本の職人たちは、俗にこれを「アンコ」とよんで、多く使っています。

 小枝類を器のおとし丈に合わせて丈を揃えて切り、逆に(葉先を下に)してつめこんでいきベースにします。


スチロフォーム

 発泡性スチロール板で、白、ペールグリーンなどが市販されています。ナイフやカッターで自由自在にカッティングできるので、各種アレンジメントのベースや、人形、動物、ハート型や楽器類などいろいろな形に切りぬいたものにカラースプレイして、アレンジメントの中に色どりやアクセントとしていれ、ムーディーな、あるいはユーモラスにデザイン効果を高めます。この本のプレゼンテーション作品の中にも、いろいろな形で使用されていますから参照してください(59~66頁)。

 そのもの自体には水分を含みませんので、長時間飾る生花をこれにさしてアレンジするベースには不向きですが、短時間(半日~1日)ですむスプレイ類…例えば、葬儀用キャスケットスプレイ、カバー、ブランケットなど各スプレイ、カバーブランケットなど各スプレイ類のベース作りには手早く仕事ができるので便利です。クロスのベースおよびクロスをスチロフォームで作り、まん中の生花クラスター(花束的な飾り)をとりつける部分は、アルミ箔に包んだオアシスかミズゴケをくくりつけるなどすればよいのです。

 また、ドライフラワーで作る大きなドアスプレイや壁かけ類などのベースに粘土と併用して使います。

 1インチ幅、2インチ幅などがもっとも使いやすいサイズで、2分の1インチ幅のうすべったい板もできています。


剣山、しっぽう

 「いけばな」で使う剣山やしっぽうは何回も使えるというのが長所ですが、重いため、運搬に不便なこと、あぶないこと、横向きにさせないことなど、また、急ぎの仕事ができないこともあって、あまり重要視しません。

 なお、剣山を使うときの注意としては、さすマテリアルによって茎もとの太さ固さによって目のこまかいもの、荒いものと使いわけしなければなりません。

 また、器が塗りもの、銀器とかひじょうに傷つきやすい器の場合では必ず器の底に砂袋、和紙を敷いて器に傷をつけないよう配慮します。

 しっぽうは、たくさんの花をとめるには不適当ですから使いません。


砂、砂利類

 大きな壺類の場合、いけばなではさす又状の枝や十字に組んだ小枝や木切れを壺の口や中へいれ、横のつっかい棒のような役目をさせて花材を固定しますが、もっと手早くアレンジングする方法として、フラワーデザイナーは、合成樹脂製の花止め砂を使います。あるいは、こまかい砂利でもよいのです。そうして、ずぶずぶと花材を砂地へさし止めてしまうのです。

ミズゴケ

 一般に市販されている観葉植物やラン類の鉢物の植えこみ材料として使われているミズゴケは、リースやスプレイ類を作るファンデーションとして適しています。保水性がありますから、形どりした板やワイヤーフレームに必要量だけとりつけて生花や葉をさすのに便利なのです。つまり、わくどりに合わせてどんな形のファンデーションにもなるということです。

 また、乾燥させておけば保存がききますから、何回でも使用できるという利点もあります。オーナメントとして使用した後、表面の花ものと葉もの類を取り去り、フレームにミズゴケをつめたまま(ファンデーション)の状態でつるしておけば、自然に乾燥し再度使えます。


わら、乾燥したスギやマツの葉

 ミズゴケと同じような目的に使います。やはり保水性がありますから生花のためによいのです。とくに日本では、わらは大量にあり、コスト安ですから、大型リース類を作るのにはもっとも適した素材といえましょう。割竹を芯にして、これに湿したわらをひとつかみづつつけ、麻糸で巻きつけていきます(写真下)。わらの量はリースの大きさによって加減します。

 枯れマツ葉やスギの葉は、必要量を蝋びき紙(ラッピングペーパー)に包み、麻糸で4~5 cm間かくにくくりつけます。ちょうど小包みのようなものになりますが、これをクロスの中心部やリースの一部分またはスタンドスプレイのポールにとりつけて花をさしクラスター(中心になる花のまとめ)の下地とします。


自分で工夫する

 以上はファンデーションとして使われる主なものですが、もちろん、このほかにもいろのものが使われています。

 ファンデーションのよし悪しで作品のよし悪しがきまってしまうといってもいいほどで、よい作品を生むためには、まずファンデーションワークを考えなければなりません。各目的にそって素材を考え、下地作りの工夫をします。

 実際に仕事をしていると、次から次へとよいファンデーションの素材を見つけだすものです。

 強力な両面接着テープ、グリーン粘土、にかわ、 e.t.c………

 ドライフラワーの壁かけ作りでは小麦粉や粉末オアシスを水にとき、ポンドでねりホルマリンを少々加えたものが、とてもやりやすいことを発見しましたし、ある大きな会場ディスプレイでは、石油かんの底に小石を入れてから、わらづとをつめて動かないようにして、花をいっぱい盛りあげ、まわりをヒバでおおってからフェニックスをさして見事な会場花に仕立てたこともありました。既製のファンデーションに頼らないで、自分で工夫し、効果的なアレンジメントを手早くまとめ上げることが大切なのです。

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