いけた立華の水換えはどうするのか~水抜きと水打ちの道具

 明治以前の日本のいけばなでは、いろいろな道具が開発され利用されていた。

今日は、一時代を築いた「立華」のスタイルでいけあげた花の水換えをどのようにやっていたのかについて見てみたい。

立華だけでなく、他のいけばなや装飾についても同様だが、「一度設置したら動かせない」ものに対して、一定期間の鑑賞が求められる場合、どのように水換えをするのかということだ。小さいものならば、いったん花器から花だけを抜いて、メンテナンスしてから再度いけなおすことができる。しかし、立華のように、花器のなかに「こみわら」を入れて、それに深々と真の枝を挿し、その他の花材もしっかりと入れてあるものはそう簡単にはいかない。現代のアレンジ装飾も同じで、飾られた場所に水をこぼしたり汚すことの出来ない場所での水換えには、ポンプのように花器から水を吸い上げて出す道具が必要なのだ。

現代では灯油を移し替えるポンプ、通称「シュポシュポ」のようなものがよく利用されている (正式には「石油燃焼器具用注油ポンプ」みたいな名前があるようだ)。


下に示す図は『頭書 立花指南』の「立華諸道具訓蒙図彙」から

【水抜き】

ヒタヒタに水を入れた器から水を抜く道具 器に筒を突っ込んで反対側(出口)にある小さな突起穴を少し吸うことで水が引き出され水圧で流れ出るような仕組みだと思われる。

水抜きの使い方は、まずいけたあと、飾る場所にセットしたら水をしっかりと入れる。水際が見せ場になるので、水もヒタヒタに入れていく事が多い。その際、いけたときに混ざった小さな花材ゴミが浮かび上がってくるので、そのようなものを少しずつ取るのはとてもたいへんだ。それで、この水抜きが活用される。水と一緒にゴミも流しだすようにする。

飾ったあとの水換えの際には、器の底の方に沈殿する汚れたものも一緒に吸い出すようにするのがよいという。植物は吸い上げるだけでなく、けっこういけ水に茎からの分泌物が出てきて水を汚す。ので理にかなっていると思われる。 『頭書立華指南』

水抜きに関して、『立花資料集成』には、別な本も紹介されている。そこには、「水抜きを使うときには、まず空で一吹きすべし」、とある。それは、この小さな穴の中にムカデ(百足)が隠れていることがあるからで、いきなり吸い込むとたいへんだからだという。

また客人などの前でいける場合は、筒に口をつけていろいろやるのはかっこ悪いので、鉛に糸を付けたものをもちいて筒にふたをして水につけて水を充満させてから糸を引いて鉛の蓋をとって水を出すようにするといい、というふうにアドバイスしている。

水抜きについて書いたついでに、となりのページの「水打ち」についても抄録する。

【水打ち】

花をいけあげると、水を打って生き生きとした感じにして仕上げとする。

昔は、マツの小枝を集めたものでやったりしていたが、専用の道具が使われるようになった。素材としては水に強いシュロや手軽な稲わらを束ねたわらしべなどが用いられている。

如露(じょうろ)もその一つである。水がやさしくあたるので、花びらにあたっても傷まず便利。

おもしろいのは、この「如露」という道具は包丁人が考えたものだと書いてある。

夏に高貴な人のために料理を出す際、涼味を出すために食器にしずくをつける考案された道具らしい。

この料理道具を植木屋がサツキやツツジの挿し芽をしたものに水を優しく与えるために利用し始めたのが元になっているそうである。

これは料理人がジョウロの発明をしたというより、料理人が使っていたジョウロ型の道具を園芸家がそれいいね、と使ってみたらちょうどよかった、ということなのだろう。それをまた花道家がそれいいね、と使うようになった、、、ということだろうか。

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