アメリカの巨大な花のファッションショー「ヘッドドレス・ボール」見聞録 1968年 関江きよ氏の報告
『カリフォルニアの花 ―アメリカ西海岸花と種苗生産視察団報告記―』社団法人日本花き生産協会発行 1968年11月11日 (非売品)から
「ヘッドドレス・ボール」という花のファッションショーは、アメリカ西海岸の花業界が主催する大きなチャリティーショーで、チケットを手に入れるのも難しいイベントだった。*ボールとは盛大な舞踏会のこと
東京・谷中に江戸時代から続く花店「花重」を経営し、また夫の関江重三郎氏とともに上野で花のスクールを主宰する関江きよ氏が参加したアメリカへの団体視察旅行とちょうど時期が重なったためショーを見た感想が報告文集に掲載されていた。
●Las Floristas Headdress Ball というショーの名前だったようだ
ラス・フロリスタス・ヘッドドレス・ボール
↓ 古い写真 このようなイメージだったのかも
"Search Results | DPLA" デジタル・パブリック・ライブラリー・オブ・アメリカから
https://dp.la/search?subject=%22Floristas+Headdress+Ball+%28Los+Angeles%2C+Calif.%29%22
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この目でみたヘッドドレスボール 関江きよ
入場券が手にはいる
このたび、植物学界、花卉業会のアメリカ西部海岸旅行団に加わり、ロスアンゼルスにおけるヘッドドレスボールに日本人として初めて参加することができました。三年前主人(*関江重三郎氏)がFTDツアーで渡米の際ビバリーヒルのヒルトンホテルで準備中のものを写してきた写真を見たり、映画によってすばらしいショーだと言うことは前もって予知致しておりましたがハワイからサンフランシスコに向う機中、アーサー伊藤さんからの電報で東京フラワーデザインセンター(*関江夫妻経営)の一行の四人分の入場券が手に入ったことを知らされ私達四人は思わず喜びあいました。前もって、エージェント及びアーサー伊藤さんに、主人から手配をお願いして置いたのが実ったのでした。私達東京フラワーデザインセンターの四名は、同行のツアーより一足先にロスに飛びました。
幸い同行の馬場さんは、美容家ですので、一同着物に着かえて、ビバリーヒルのヒルトンホテルに向いました。ロビーで伊藤夫妻に笑顔で迎えられ白のカトレヤでヘアードレスをつけて頂きました。出席者は必ず生花のヘアードレスをつけ男性はタキシード。女性はイブニングドレスを着て出席するのが、その豪華なきまりなのです。まず、フローリストのテーブルセンターピース、十数点が展示されているのを見学致しました。テーマは、お伽の国の休日で、小花を主につかった作品が目をひき、また、塔や橋などを使った、日本調も見受けられました。光栄にも伊藤さんが私達の案内をして下さるそうで奥様は、ショーのジャッジをおつとめになるのでお忙がしいとのことでした。
行き届いたデコレーションには驚きました。ヒルトンホテルの国際舞踏場入口は、すっかり生花で飾られアーケードもできて色彩豊かにカスミソウが全会場をソフトなムードに盛上げておりました。丸いテーブルにはキャンドル数本を使ったアレンジメントが各テーブルに用意され、目よりやや高めに飾られ、根本には、ガーデニアのコサージがちりばめられて心憎いばかりの行届いた会場装飾でした。天井からは大小の風船が、バスケットを下げて揺れており、無数のカスミソウが華やかさと美しさと豪華さと上品さを加えておりました。小ホールで開かれた一般のショーは参加された御婦人のヘアードレスを競うもので、ここでは雪にスケート靴の方もいれば、星、みみづく、背迄下げたツルバラや、シャンペンにグラスの方、ここでも日本調の真赤な鳥居や烏帽子まであらわれて、笑いの中に入賞が決まり、一等にはメキシコの一週間の旅券がプレゼントされた模様です。
ヘッドドレスショーいよいよ始まる
さて、本番の、国際舞踏場に一、〇〇〇名からのお客様が集まり、華やかに迫力のある豪華なショーが開幕されるのです。ここで初めて、アーサー伊藤夫妻と同じテーブルにつき、このショーについていろいろお話を伺いました。この行事は年一回、四月最後の金曜日に生花関係の各団体が中心になり、チャリティショーに結びつけ、生産、販売、スポンサーの合同委員会によって開催される大規模なアクティビティで、フローリスト・デザイナーが中心になり、技術の向上と消
費のPR、社会事業を目的に行なわれ、利益金は毎回大変な額で今回は約三二、四〇〇ドル(約一、一〇〇万円)が社会事業に向けられるという心暖まるお話を伺いました。
このショーに出席なさる御婦人の中には誰がどんなドレスを着て出席するかと、それを目的でいらっしゃる方も多いとか、いずこも同じかしらと、奥様のお話で感じさせられました。間もなく女性二人のチェアーマンの挨拶があり、テレビのライトが恍々と照らされ一層の盛上がりが感じられ、思わず手を固く握りしめました。このショーに出演するモデルは会員の中から選ばれ、ドレスもご自分でデザインして作られる奥様もいらっしやると言うお話です。
一年中の努力をこのショーに集中した感じで、アメリカならではの奇抜なアイデアと思い切ったデザインの中にもユーモラスで美しい色調とリズミカルに厳選された一〇点のヘッドドレスが躍動しながら等身大の花飾りを頭の上にのせて次から次へとステージに繰り込みます。その度に上がる嘆声や万雷の拍手、走りまわるカメラ、夢の様なありさまとは、まさに、このことを言うのでしょうか、到底、筆舌になど表わせるものでございません。
酔った様な感激の中にフィナーレ。ジェスチャーたっぷりに、一〇人の美女とそれに負けないヘッドドレス・ステージから最後の愛嬌をふりまきます。上流社会から参加されたお客様も殆んど立ちあがり口笛、喚声そして鳴りもやまない万雷の拍手の中にショーが終わりました。後のダンスパーテーが華やかにはじめられ、おそらくそのムードと感激を惜しんで夜のふけるのも忘れて踊り続けられたことでしょう。
これで私達の渡米の目的は大半達せられたと言っても過言ではないと思いつつ、ホテルに帰るとカンザス州の大学に留学中の息子重寿が成長した姿で訪ねてきておりました。
このことと共に私にとっては何よりのすばらしいお土産となりました。そして日本の花の業界も、もっと団結して頂いて、この様に年一回ぐらいは、お花のカーニバルがあってほしいと思いました。そして社会的に有意義な方向にむけられたなら、どんなにすばらしいことかとひとしお感じさせられました。
幸い生産団体の会長さんも旅行に参加なされたことですので、なんとか実現の方向へお導き下さることを切に期待しております。
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『フローラルアートの完成』1980年に、このヘッドドレスボールというイベントについて詳しい解説がある。
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(3)ヘッドドレス
ラス・フロリスタス・ヘッドドレス・ボウル(Las Floristas Headdress Ball)
南カリフォルニア、ネバダを中心に上流社交会の人達によってつくられているヘッドドレス協会の主催により、毎年4月第3金曜日(時には変更する事もある)に行われる。
1938年、女性の頭に花を飾って参加する事を条件としたチャリティ舞踏会が行われ、それをトーナメントした事より始まる。トータルなベストドレッサーが表彰されるので、これにフローリストのデザイナーが協力する様になった。ヘッドドレスもだんだん大き<エスカレートし、デザイナーの腕を競う様になり、参加者とは別にデザイナーの作品のトーナメントを行うようになった。技術も向上し、開始後5~6年頃から、金属性のファンデーションが生まれた。デザイナーは上流社会へ進出するチャンスとして、PRとしてこのトーナメントに参加し、栄誉を受け地位の向上のための努力をするのである。
参加資格を得るためには、会場内のセンターピースを何回か出品し、入選する事を条件としている.ミニヘッドドレスは、来会の女性全てが着装する事を義務づけられ、これもコンテストとしてジャッジされ賞が与えられる。
ヘッドドレストーナメントに決められている制限は頭上から5フィート以内、巾6フィート以内、重さ25ポンド以内にしなければならない。そしてこのヘッドドレスは、90%生花を便用する事。そして植物以タトは見せない事。但し、着色は認められている。75%が肩から上にある事等である。
デザイナーは意表をついたデザイン、軽く、大きく豪華に作り上げる工夫を一生懸命研究するあげ<、技術的にも最高のものにまでのし上げており、これからますますエスカレートして行<可能性がある。
毎年6月に次年のテーマが決められ、参加希望者は実績による資格選考をパスしなければならない。資格を得たデザイナーは、12月にペーパーデッサンの提出をし、1月にはフレーム製作者(パサデナ・ローズパレードのフロートのベースを製作する専門家)との打合わせをする。3週間前にはフレームが出来上るので、内側の部分(フレームの金属かくし)の花を貼り始める。現在では揮発性の接着剤を使用し、仕上げにクリアーラッカーをかけるが、花弁が縮まったり変色しない様に研究開発されている。前日出来上った時に重重、高さ、巾を審査するが、徹夜で制作するデザイナーは商売抜きで職人芸の戦いとなってしまう。
ファンデーションは図の様な形式にまで発達し、現在では腰にコルセットをつけ(後方にポケットの様なものがついている)そのままドレスを着装し、作品はファンデーションをポケット
にさし込むだけで良い様になった。素材はジュラルミンとアルミが主体で、グラスファイバーの様なネットも使用する。
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